「こっち向いてよ向井くん」で描かれる男女のジェンダー観の違いが刺さる

「こっち向いてよ向井くん」で描かれる男女のジェンダー観の違いが刺さる

「こっち向いてよ向井くん」で描かれる男女のジェンダー観の違いが刺さる

フリーライターの小林なつめです。

国内のドラマ鑑賞で、「日本のいま」を追いかける

以前も「「◯◯女子」の流行は歓迎されるべきものなのか?思わぬ効果アリ? 」や「シスターフッドを描いたフィクション作品についての所感【属性と役割分担は結び付けない方がいい】」で、ドラマに関する記事を書いたが、私は自称ドラマウォッチャーだ。

見るのは国内のドラマがほとんどだ。私はここ数年、在宅で働いているので、「実社会」を見る機会が少ない。それでもドラマを見ると、その時代の風潮や流行り、人々の感覚などが何となく察せられる。

ドラマを追いかけていると、「こんな言葉の使い方があるのか」「今の若い人の感覚ってこんな感じなのかも?」など、新しい発見がたくさんある。

ドラマウォッチャーの端くれとして、私は毎シーズン初回のドラマを、ほぼ全て視聴している。初回を見た印象で、その後見続けるかどうかを決めるのだ。

判断基準は私の主観によるもので、かなり曖昧だ。キャストやストーリーはあまり関係ない。重視しているのは、ドラマ内で共有される「感覚」だ。自分の感覚と、あまりにもかけ離れていると、見ていて不快なので、見ないようにしている。

 

そのドラマ、ジェンダーのアップデートは済んでいますか?

最近よく感じるのが、ジェンダーのアップデートがされているドラマと、まったく配慮のないドラマが二極化していることだ。

そもそも日本のドラマは、女性をターゲットに作られているものが多いので、ここ数年で、配慮を感じられるドラマが増えてきているように思う。

私もそうだが、「うわ~」と思うようなジェンダー描写があると、見るのをやめてしまう、女性の視聴者は多いのではないだろうか。

そんな中で面白かったのが、2023年夏に放映された日テレのドラマ、「こっち向いてよ向井くん」だ。ストレートに男女のジェンダー観の違いを描いた作品で、「恋愛ドラマ」の域を超えていると感じた。

ジェンダーの本質をついた人物描写と、リアルなストーリー展開には、思わず引き込まれた。原作とほとんど変わらない内容だったので、資料と称してマンガもそろえてしまったほどだ。

 

同じような視点でこのドラマを見ていた方は多いようで、この方は「ジェンダーにまつわる社会課題を娯楽の形で伝えてくれる傑作」だと簡潔にまとめている。「男性にこそ見て欲しい」というのも、よく分かる。

「こっち向いてよ向井くん」に見る、男女のジェンダー観の違い

私にとって印象深かったのは、第7話の「私たちは、なんで10年前に別れたんだと思う?」だ。主人公の向井くんが、ずっと引きずっていた10年前の元カノ、美和子と、当時2人が別れた理由について話し合う。

端的にいうと、2人が別れた理由は、結婚願望の違いだ。向井くんは当時、美和子との結婚を考えていたが、美和子はそもそも結婚したくなかった。

彼女は「女の人は結婚してないと、子どもを産んでないと、そんなに肩身が狭いの?そんなのおかしい。私にとっては結婚するって、長いものに巻かれるみたいなことなの」と話す。彼女は未婚を貫き、「女性は1人でも幸せに生きられる」ことを証明したいというのだ。

一方の向井くんは「いっそ長いものに巻かれたい」と思っている。向井くんは「結婚したい」と語りながらも、その実、「結婚」がしたいわけではない。結婚することで、恋愛や結婚にまつわる煩わしさから解放されたいだけなのだ。

2人は真逆の方向を向いている。ここに描かれているのは、役割を手放したい女と、役割に縛られたい男(枠にはまりたい)の対比だ。

 

変化を望まない男性たちと、変わりたい女性たち

ほかにも、このドラマには数人の男性が登場する。結婚を機に「自分らしさ」を手放し、「夫らしく」変わっていく、向井くんの義弟、元気。向井くんを結婚させようと奔走する父親。結婚の覚悟の象徴として、高級時計を買った向井くんの先輩、環田。そして、未婚女性は「孤独だ」と見下す、美和子の父親。

彼らの共通点は、誰もが「男性」「夫」「父親」の役割を、自ら演じたがっているというところだ。彼らは、女性たちが「女性」「妻」「母親」の役割を手放したがっているのとはうらはらに、その枠にはまり続けることを望んでいる。

なぜ男性は変わらないのだろう…この問いの答えは、端的に「必要ないから」なのだろう。彼らにとっては現状維持が一番ラクなのだ。

一方で女性が変わりたいと願うのは、現状から抜け出したいからだ。苦しいから、つらいから、変わりたいと願っている。

 

世の男性にジェンダー感のアップデートを望む

つらい思いをしている側が、変化を願うのは当然だ。もし、彼女たちに寄り添ってくれる男性がいたら、この社会に、そういう男性が増えたら、この不毛な対立構造はなくなるだろう。

そのためにも、ジェンダーの視点を持つ男性が増えてくれるといいなと思う。「こっち向いてよ、向井くん」は、そういう男性を増やすための啓蒙ドラマともいえる。

イラついたり怒ったりせずに、全話見られるかどうかで、ジェンダー感のアップデートが済んでいるかの、リトマス試験紙にもなりそうだ。

 

【参考URL】
◆ こっち向いてよ向井くん|日本テレビ
◆ 「女が結婚に疑問を抱く理由」を描く「こっち向いてよ向井くん」 夏ドラマで一番のお気に入りに(デイリー新潮) – goo ニュース
◆ 「こっち向いてよ向井くん」第7話:「結婚したい」と思ってる?思わされてる?手垢に塗れていない本音を見つける難しさ | CINEMAS+

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