フリーライターの小林なつめです。
男性学は女性学がなければ生まれなかった
伊藤公雄氏は、ジェンダー論を専門とする社会学者だ。1992年には京都大学で国内初の「男性学」を冠した科目名の授業を行っており、男性学の草分けの1人でもある。
伊藤氏の代表作でもある『男性学入門』の序文によると、男性学とは、「「女性学」の発達に対応して生まれた」という。ということは、女性学がなければ、そもそも男性学は生まれなかったのかもしれない。
というのも「女性学」は、男性主体で成立し、女性を「添え物」あるいは「そもそもいないもの」と見なしてきた、それまでの学問を、女性の視線から再構築しようという目的で始まっている。
女性の視線で見直すと、それまでは当たり前のものとしてそこにあった文化や社会、政治、経済などの常識がひっくり返る。この事実により、それまで女性が受けてきた抑圧や差別が可視化され、すべての社会構造を見直す必要性が明確化された。
女性学の目的、そこから得られた成果を鑑みると、これと双対を成す意味での「男性学」は存在しないだろう。なぜなら、男性という性は、マジョリティとしての特権を持ち得た性別であり、これまでの学問を見直す必要はないからだ。
ジェンダー平等から見いだされた男性の「男らしさ」への固執
しかし、女性学による発見は、男性たちにも多くの気づきを与えた。その最たるものが男性の「男らしさ」へのこだわりだ。
女性たちの、ジェンダー平等を求める声が大きくなるほど、男性は自らの「男らしさへの思い込み」との対峙を迫られた。女性問題の主な原因が、男性の「男らしさへのこだわり」にあることは、明確だったからだ。
男性学は男性が「自分らしさ」を追求するための学問
伊藤氏は男性学について、「さまざまな「問題」を、かかえている現代社会の“悩める男たち”が、より豊かな人生を送るために生みだされた、「男性の生き方を探るための研究」」と、定義している。
さらに男性たちは「古い窮屈な「男らしさ」の鎧を」脱ぎ捨て、「「男らしさ」ではなく「自分らしさ」を追求した方が良い」とも述べている。
男性たちが「男らしさ」ではなく「自分らしさ」を求めるようになれば、ジェンダー平等の実現がかなう日が近付くだろう。
男性学は、男性が自身の「男らしさ」と正面から向き合うための学問であり、男性のみならず女性をも、ジェンダーによる呪縛から解放する役割をも担っているのだ。
【参考URL】
◆ 【伊藤公雄:京都大学 最終講義】「近代=male hegemony= 社会の終わりを前に 〜なぜ男性学・男性性研究だったのか〜」 | ウィメンズアクションネットワーク Women’s Action Network
◆ 「セクシュアル・ハラスメントと男性性」(京都大学・大阪大学 伊藤名誉教授提出資料)
◆ 【男性学とは】成立の歴史からフェミニズムとの関係までわかりやすく解説|リベラルアーツガイド
◆ 女性学(women’s studies)|日本女性学習財団|キーワード・用語解説
【参考図書】
『男性学入門』伊藤 公雄/著 作品社 1996.8
『ジェンダーで学ぶ社会学 新版』伊藤 公雄/編 世界思想社 2006.11
『新編日本のフェミニズム 12 (男性学)』天野 正子/[ほか]編集委員 岩波書店 2009.12