なぜ保育士の給与は上がらない?男女差別からくるケア労働への軽視

なぜ保育士の給与は上がらない?男女差別からくるケア労働への軽視

なぜ保育士の給与は上がらない?男女差別からくるケア労働への軽視

フリーライターの小林なつめです。

 

ケアリング・マスキュニティ」について調べていたとき、「新しい男性の役割に関する調査報告書」という資料で、ケア労働について興味深い記述を見つけた。いかにその趣旨をまとめる。

 

ケア労働と男女差別の因果関係

家庭における、家事・育児・介護といった無償のケア労働。性別役割分業が当たり前だった、かつての日本では、ケア労働は長らく「女性の仕事」とされてきた。男性は家庭のことは妻に丸投げし、自らはケア労働から解放され、仕事に専念できた。

その結果、男性には、職業労働を担い、経済的自立を果たすチャンスがより開かれた。一方で女性は家庭内のケアに関わる責任から、経済的自立の機会が制限されてきた。

またケアに関わる職業は、家庭内の無償労働と結びつけられ、労働市場においても、賃金が低く設定された。家庭外における有償のケア労働も、女性によって担われることが多く、それがさらに男女賃金格差を生じさせる一因となってきた。

 

ケア労働の1つ保育士の処遇改善について

家庭外におけるケア労働の代表格が「保育士」だ。保育士は、体力勝負の過酷な長時間労働なのに、低賃金であることで知られている。待遇の悪さから離職率が高く、人手不足が常態化している現場も多い。

保育士は長年、処遇改善を訴えてきた。国もその現状を把握しており、2013年から処遇改善制度を導入している。

2015年に始まった「加算Ⅰ」は、保育士の経験年数に応じ、2~12%の加算率が適用される制度。2017年に始まった「加算Ⅱ」は、保育士の経験と技能に応じ、月額5,000円~加算される制度だ。どちらも、保育士のキャリアに応じて、処遇改善の加算が適用される。

2022年には新たに「加算Ⅲ」が設けられた。「加算Ⅲ」では、保育士のキャリアを問わず、収入を3%程度(月額9000円)引き上げる費用補助が行われる。

国の処遇改善制度について調べて、私が実感したのは「ああ、国は意地でも保育士への給与を上げたくないんだな」ということだ。

「加算Ⅰ」と「加算Ⅱ」では、あれやこれやと条件を付け、やれ経験だ、やれスキルだと保育士に課題を与えた挙句、クリアしても大した賃上げは保証されない。「加算Ⅲ」で、ようやく全ての保育士に賃金改善が行われると思ったら、金額は驚きの「9,000円」。

本気で処遇改善する気があるのか?いやないんだろうな…と思わされる対応だ。結局は、保育士のようなケア労働者の仕事が軽視されているから、給与が上がらないのだろう。

 

ケア労働の業界に男性が参入すると、どうなるか

「ケア労働は、女にでもできる仕事」「女にさせておけばいい仕事」という男女差別に基づく価値観が、こんな形で残っているのだ。

となると、ケア労働への男性の参入は、ケア労働の業界に一石を投じる可能性が大きい。つまり、今後男性がケアに関わる職業労働により参入していけば、男女の賃金格差の縮小が期待できるということだ。

男性の参入によって、ケアに関わる職業の賃金水準が上昇する。それに伴い、同じケア労働職に就いている女性の賃金も上昇し、結果的に男女の賃金格差が縮小するという効果が出るかもしれない。

 

【参考】

保育人材の確保|厚生労働省
保育士が、こども家庭庁に最も期待することは「処遇改善」。「配置基準の改善が、不慮の事故や不適切保育の防止につながる」との声も | 株式会社ネクストビートのプレスリリース
新しい男性の役割に関する調査報告書|笹川平和財団
Caring Masculinity(ケアする男性性)|なかそね
なぜ女性はケア労働者になるのか 女性の行為主体性と性別分業の再生産・変動(山根 純佳) │ 東京大学文学部・大学院人文社会系研究科
育児や介護などのケア労働は、労働の中で特殊なものではない – 國學院大學
保育士から苦悩の声が続々「政策を決める人たちは現場で1週間でも実習したら?」 配置基準と処遇の改善を | 東京すくすく | 子育て世代がつながる ― 東京新聞
過酷労働でも月収20万、保育士たちが訴える窮状 月9000円の賃上げでも給与に反映されるかは謎 | 政策 | 東洋経済オンライン
[保育士の処遇改善加算]わかりやく解説します! | 保育ネクスト~次世代の保育環境について考えるメディア

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