フリーライターの小林なつめです。
ジェンダー色の強いドラマ作品が増えてきている昨今、2023年秋クールでも、ジェンダー要素の強い作品が放映された。「セクシー田中さん」という、ジェンダーとは真逆?の印象を受けるタイトルが付いたドラマで、原作は女性向け漫画だ。
主人公は派遣社員の朱里。若さを武器に、連日合コンに参加し、結婚相手を探している。結婚を夢見ているのかと思いきや、朱里が結婚したいのは、幸せになりたいからではない。「不幸にならないためには、リスクヘッジが必要」だと考えているからだ。
彼女にとって、結婚がリスクヘッジとなる理由はシンプルだ。「経済的に女1人では生きていけない」から。派遣社員にしかなれなかった朱里には、1人で生きていく将来図は描けなかった。「普通」に生きていくためには、結婚するしかないと考えていたのだ。
しかし、田中さんがベリーダンスをしている姿を見て、考え方が少しずつ変わり始める。
そんなストーリーの中に引用されるのが、2016年の米国大統領選挙でトランプ氏に敗れた、ヒラリー・クリントンの敗北宣言だ。
ヒラリー・クリントンは、二度、大統領選挙に臨み、その両方で男性に敗れている。【米国初の女性大統領】というガラスの天井を打ち砕こうと努力したものの、願いはかなわなかった。
敗北宣言の一部を以下に抜粋する。
「全ての女性のみなさん、特に今回の選挙戦で私を信頼してくださった若い女性の方々は、ぜひ知っておいてください。
(中略)
私たちはいまだ、あの高いガラスの天井を打ち砕くことができていません。でも、いつの日かきっと誰かが、私たちが思うよりも早く成し遂げてくれることでしょう。
それから、今この演説を聞いている全ての女の子たちへ、あなた方には価値があり、力があり、あなたの夢を追い求め、叶えるためにあらゆるチャンスが与えられていることを、決して疑わないでください。」
結婚をリスクヘッジだと考えている朱里は、この敗北宣言を「ちょっといい」と思っている。それは、敗北宣言が「女性は価値と力を持っており、夢を叶えるチャンスも与えられている」という事実を教えてくれているからだ。
現代社会において、女性が社会的に成功するのは、男性より一層困難だ。自由の国アメリカですら、いまだに女性大統領が誕生していないという事実が、それを裏付けている。
しかし、それでも女性が夢を実現するのは不可能なことではない。朱里はその言葉を体現しているかのような田中さんの姿を見て、自分も、自分で自分に作っていた枠からはみ出したくなる。
結婚を人生のリスクヘッジにするような、みみっちい行動はやめて、自分の持つ価値と力を信じ、新しい道に一歩踏み出していこうとするのだ。
確かにリスクの高い行動を取るのは怖い。でもだからこそ、そこに挑戦することに意義があるのではないだろうか。私自身も、自分の生き方や働き方と、あらためて向き合わなければと、考えさせられるドラマ作品だった。
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■ 芦原妃名子「セクシー田中さん」特集 横澤夏子インタビュー – コミックナタリー 特集・インタビュー
■ ヒラリー・クリントン敗北宣言を全文翻訳で読む:日経xwoman
■ 「女性は女性を支持する」という安易な幻想 なぜヒラリーは女性に選ばれなかったのか | グローバルアイ | 東洋経済オンライン