マタハラの加害者はかつての性差別の被害者?世代間の「負の連鎖」を断ち切るには

マタハラの加害者はかつての性差別の被害者?世代間の「負の連鎖」を断ち切るには

マタハラの加害者はかつての性差別の被害者?世代間の「負の連鎖」を断ち切るには|リアンブルーコーチング舎

フリーライターの小林なつめです。

あなたはマタハラの実態を知っていますか?私は知りません。

私自身、過去に公務員として働いていた頃、妊娠期間中に数回にわたって長期間休んだ経験がある。私がチーフを務めていたプロジェクトの進行中に急遽入院したこともあり、職場の方々には、かなり迷惑をかけたと思う。しかし一度も「マタハラを受けた」経験はない。

しかし現実の日本社会には、4人に1人の割合で、マタハラ被害に遭っている女性がいるそうだ。令和2年10月に厚生労働省が行った「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去5年間に就業中に妊娠/出産した女性で、「妊娠・出産・育児休業等ハラスメント(ここでいうマタハラ)を受けた」と回答した人の割合は、26.3%だったという。

さらに意外だったのだが、加害者には女性も多いということだ。2015年労働政策研究・研修機構の「妊娠等を理由とする不利益取扱い及びセクシュアルハラスメントに関する実態調査」によると、マタハラ加害者の55.9%が男性、38.1%が女性という結果が出ており、加害者は男性とは限らないと分かる。

しかし、この実情は単なる「女性同士の対立」として語るべきではない。女性が加害者となっている場合、彼女たちの経験が大きく関係していると考えられるからだ。

現在ほど働く女性が多くなかった時代。出産・育児をしながら働き続けてきた女性たちは、心身ともに限界まで家庭と仕事の両立に励み、生き抜いてきた。

自分の経験をベースに考えると、部下や後輩の言動が甘えに見え、ついマタハラに当たる言動を取ってしまう気持ちも、分からなくはない。

仕事を続けるために、結婚や出産を諦めざるを得なかった人たちや、仕事と家庭を天秤にかけさせられた人たちもいる。

長く男性社会の中で働いてきた女性の中には、男性的な価値観や振る舞いが内面化し、無意識に、女性を攻撃する言動を取ってしまうような人もいるだろう。

でも時代は変わった。制度も文化も、女性が生き方や働き方を以前より柔軟に選び取れるように、後押ししてくれるようになった。上の世代は、「時代は変わった」ことを認め、自分の中の常識をアップデートする必要があるだろう。

一方で、下の世代は今ある「当たり前の権利」を享受するのは当然としても、時には現在の環境を作るきっかけとなった女性たちに思いを巡らせてみると、上の世代の女性たちに歩み寄れるかもしれない。

先日放送されたテレ東24ドラマ「今夜すきやきだよ」の第4話「光輝く牛すじ肉まん」。その中で、主人公の職場の上司にあたる女性Iが、同期社員Aと会話する場面が印象に残った。

A「私らの頃と比べたら、今の子たちはいいなあ、若い頃からどんどんチャンスもらえて。ちゃんと評価もされて。」
I「私らどうせ寿退社するだろって思われて、なかなか大きな仕事任せてもらえなかったもんね。」
A「やっと仕事任せてもらえるようになったと思ったら、今度は若手の育成よ。」
I「もうそんなトシだもんね。」
A「いや、いいんだけどさ、でもたまーに?むなしくなったりするわけですよ。」

若い頃、仕事を頑張りたくても、なかなか仕事をもらえず、評価もされなかった世代の女性たち。少しずつ時代が変わり、これまで積み重ねてきた努力が認められるようになったと思ったら、現場一線は退き、若手の育成を任される…厳しい時代を必死で乗り越えてきたのに、なぜだか報われない。これではむなしさを抱えるのも当然だ。

世代間のギャップを超えるには、お互いの思いや考え方、そこに至った背景を知ることから始めるといい。経験を共有し、相手を理解する努力ができれば、世代を超えた女性同士の連帯が望めるだろう。

【参考】
『「男女格差後進国」の衝撃』治部れんげ/著 小学館 2020.10
「男女格差後進国」の衝撃: 無意識のジェンダー・バイアスを克服する (小学館新書)

【参考サイト】
【育児×キャリア シリーズ】子どもを望んで理想の職場を去る…「産む性」としての女性のキャリア
令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査
「妊娠等を理由とする不利益取扱い及びセクシュアルハラスメントに関する実態調査」結果(概要) |独立行政法人 労働政策研究・研修機構

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