フリーライターの小林なつめです。
2023年2月、中小企業の社長、瀬戸麻希氏による、以下のツイートが話題となった。
批判覚悟ですが、私は、寿退社や産休や育休をされると困るので、若い女性は正社員として雇用してません🙄
本音は雇ってあげたいし心苦しいのだけど、うちのような弱小企業では雇う余力がありません🙄こういうところに政府の助成金を出してほしいと思う🙄
— 瀬戸麻希🙄 Amazonブランド登録専門弁理士🙄生涯偏差値20の最終学歴中卒🙄 (@ensemble43530) February 5, 2023
「寿退社や産休や育休をされると困るので、若い女性は正社員として雇用してません」
これはかなりの問題発言だ。そもそも性別を理由にした募集や採用をするのは、「男女雇用機会均等法」違反。また女性を「結婚や子育てで、キャリアを捨てる側の性別」とする発言も、れっきとした性差別だ。
理想を語らなければ現実は変わらない
もし、この発言をしたのが男性社長だったら。当該ツイートは瞬く間に炎上し、メディアにも取り上げられ、社会的制裁待ったなしだったのではないだろうか。
今回、この発言をしたのは若い女性社長だった。それゆえ、どちらかというと、好意的に捉えられているような印象を受けた。これもまた、性別による差別といえる。
好意的な意見として、多く見受けられたのは「それが現実だ」「正直で偉い」「本心では、みんなそう思っている」などなど…でも社会として望ましい形ではない「現実」をそのまま口にし、真実をつまびらかにすることは、必ずしもいいこととはいえないのではないか。
そうやって「今ある現実」を「それが現実だから仕方ない」と言い合っている限り、前に進めない、社会は変わらないだろう。まずは綺麗事、絵空事でもいい。それでも社会をよりよくするためには、「理想」を語ることが必要だと思うのだ。
女性だけがライフイベントの犠牲になるという「現実」
現実問題として、中小企業が若い女性を採用できない、しにくいという状況があるのは、理解できる。それでもやはり、「だから私は採用しません!」と大っぴらに公言する行為は、受け入れ難い。
それでは、結婚、出産後も働き続けたい女性が選べるのは、企業として体力のある大手企業か、公務員か…というように、選択肢がかなり狭められてしまう。
それに、結婚や出産、育児をきっかけに、女性が自らの希望を二の次にして、「会社がそれを望まないから」「迷惑になるから」という理由で、キャリアを捨てなければならない社会というのも、いかがなものだろう。
「女性として生きている」ただそれだけで、キャリアや理想の生き方を諦めなければならないなんて。たとえそれが現実であっても、私は、これから先を生きる子どもたちに、そんな事実を伝えたくはない。
そもそも、くだんのツイートが「中小企業のホンネ」として好意的に捉えられるのは、家事育児の負担が女性ばかりにのしかかっている証左でもある。
もし男性の育休取得率が女性と同等になれば、「若い女性」と同じように「若い男性」も雇用しづらくなるはずだ。そうなれば、今ある社会の常識は、根本から変わるのではないだろうか。実際、女性にできて男性にできないことは、妊娠、出産くらいなものなのだから。
子育てのブランクとキャリアの断念
女性を「子育ての性」としたうえでの見方として、「子育てに専念する期間を経て、子育てが落ち着いてから復帰すればいい」という意見も多い。しかし当事者にとって、それはそう簡単なことではない。ブランクの期間が長ければ長いほど、心理的にも社会的にも再就職のハードルが上がり、仕事が選べなくなるからだ。
今まさに、子育てを理由に、希望のキャリアを中断している私からすると、そういう生き方を選ばざるをえない現実に、絶望に近い思いがある。
私は今、希望の職種でまた働きたいと考え、就活をしている。多くの場合、最終審査まで進むが、そこで落とされる場合が多い。どうやら、子育てがひと段落した女性たちと比べた時に、「使えない人材」と判断されているようだ。これは、出産前には経験したことのない状況だ。やはり、小さな子どもがいる女性は、どうしても敬遠されてしまうらしい。
このようなことが続き、就活がうまくいかないと、子どもの手が離れる頃(おそらく10年以上先)まで、希望の職種で働けない可能性が現実味を増して、恐怖すら覚える。
夫婦がお互いにキャリアと子育てを全うするためには
同時に、夫婦関係の問題もある。育児によるブランクの期間中、妻は経済的に夫に頼らざるをえなくなる。こうなると夫に「男性としての役割(稼ぎ主)」を担わせると同時に、家事育児の分担がしづらくなる。
例えば私は、前職を辞めてフリーランスになってから、収入は以前の半分ほどに減った。期間限定とはいえ、このような性別分業制の形が続くと、夫婦関係の健全さが損なわれるように思う。私にとって、夫婦は「仕事も家事もシェアする」関係が理想だ。夫婦のいずれかが「家のために仕方なくキャリアを断念する」という選択は、男女平等の理想とは程遠い。
夫は会社員だが、その旧態依然な働き方を見ていると、やはり「働き方改革」が必要だと、つくづく感じる。リモートワークやフレックス制の導入で、柔軟な働き方ができれば、彼の望む形に近い「仕事と子育ての自由な両立」ができるはずだ。本人も現状に疑問と不満を抱いており、転職や起業を考えているところだ。
柔軟な働き方の実現は、子育て中かどうか、あるいは性別も問わず、すべての人に意義がある。誰もが生涯元気に働けるわけではない。子育て以外にも、自身や家族の病気やケガ、親の介護など、さまざまな問題が考えられる。人それぞれが、状況に応じた働き方を選べれば、結果として、希望のキャリアや生き方を実現しやすくなるだろう。
【参考URL】
◆ 「女性は採りたくない」中小企業が今もそう考える理由 |PRESIDENT WOMAN Online(プレジデント ウーマン オンライン) | “女性リーダーをつくる”
◆ 経営者のボヤキ「育児休業って、会社の負担が大きすぎない?」: J-CAST 会社ウォッチ【全文表示】
◆ 中小企業では産休・育休がとりにくいのが現実。退職せざるを得ない人も少なくはない。|Raorsh~社会人の為の情報サイト~