「少子化対策」には意味がない?本当に必要なのは女性の権利を守ること

「少子化対策」には意味がない?本当に必要なのは女性の権利を守ること

「少子化対策」には意味がない?本当に必要なのは女性の権利を守ること

フリーライターの小林なつめです。

 

少子化対策には効果がなく、むしろ女性に悪影響!?

先日、驚きのニュースを目にした。国連人口基金(UNFPA)※が2023年4月に公表した『世界人口白書』で、「出生率を政策で操作しようとしてもあまり効果がなく、むしろ女性に悪影響が及ぶ」と懸念を示したというものだ。

日本では、2023年1月に、岸田首相が「異次元の少子化対策」の実施を表明しており、とてもタイムリーな話題だ。

もしUNFPAの主張が真実なら、どんなに少子化対策に取り組んでも、あまり意味がなく、それどころか「産む性」である女性たちに、不利益が生じてしまうことになる。

くわしい内容をみてみよう。UNFPAでは、少子化の打開策として、出生率にこだわるよりも、労働力となる女性の人口比率を高めることを勧めているという。

ナタリア・カネム事務局長は「人口や出生率についての考え方を変えなくてはならない。男女不平等が基本的な問題だ。出産時期や子どもの数は女性が自由に選ぶべきだ」と話しており、男女平等を進めることで、社会や経済の発展を目指すべきと提言している。

※国連人口基金(UNFPA)は、国際連合のもと、人口に関する分野に取り組む機関だ。国際的な資金を得て、世界各国のリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)や、個人の選択に基づく家族計画サービスの改善を支援している。

 

少子化対策は女性の生き方を狭めてしまう

「少子化対策には意味がない」という見出しに、最初は軽い衝撃を覚えたが、くわしく確認してみると、至極当たり前の内容だ。

少子化対策は女性を追い詰める。

「女性は子どもを産まなければならない」「出生率を上げ、人口を増やすためには、とにかく女性に子どもを産ませなければならない」…政策が発するこうしたメッセージは、女性の視野を狭め、プレッシャーを与え、女性同士の分断を煽り、果ては生き方をも狭める。

日本に生きる女性なら、何らかの形で、誰しも身に覚えがあるのではないだろうか。

 

今でも女性は「産む機械」だとみなされている?

このとき私の脳裏に浮かんだのが、政治家の失言だ。

以前「「管理職の女性はセクハラを受けやすい」!?リーダー職の女性を待ち受ける困難」の記事でも、2014年に塩村文夏議員が受けたセクハラやじを紹介したように、政治家による、女性への差別的発言は、枚挙にいとまがない。

中でも私がいまだに忘れられないフレーズに、「産む機械」がある。

これは、2007年当時、厚生労働大臣だった柳沢伯夫氏が「15から50歳の女性の数は決まっている。産む機械、装置の数は決まっている」と発言したものだ。

2007年当時、私はまだ大学生で、今ほど政治に関心はなかったが、頭をガツンと殴られたような衝撃を覚えた。

政治家という、日本を代表する立場の人間の言葉は、社会の意見の代弁とも捉えられる。

私たち女性は、この国で「産む機械」としか考えられていないのだと考えると、女性には人権も何もない、男性にとっての道具でしかないのかと、情けないような、たまらない気持ちになった。

最近になっても、少子化の原因を女性の責任とするような政治家の発言は、減ることがない。

 

女性の人権尊重が少子化の解決につながる?

このように、政治家をはじめとする多くの人々が、少子化を女性の責任だと考える社会で、果たして女性が子を持つことに前向きになれるだろうか。考えるまでもなく、なれるはずがない。

つまり、順番が逆なのだ。少子化対策を充実させるよりも先に、産む性である女性の人権を尊重する必要がある。

子を持つか否かや、結婚や妊娠、出産のタイミングや形、仕事との両立などを、女性自身が主体的に決め、それが女性の希望通りに実現できる体制を確立しなければならない。

それができてやっと、女性は子を持つことに前向きに、少なくとも現状よりは積極的に、考えられるようになるだろう。女性の人権を守ることは、少子化の解決につながっているのだ。

 

男女平等と出生率には正の相関性がある

なお、男女平等と出生率の関係については、ジェンダーギャップ指数と合計特殊出生率との関係性からも、正の相関性があると明らかになっている。

以下のグラフを見てほしい。例外もあるが、基本的には、ジェンダーの格差が少ない国ほど、合計特殊出生率が高い傾向にある。特に経済面の格差は、出生率に大きな影響を与えている。

「少子化対策」には意味がない?本当に必要なのは女性の権利を守ること

出典:ESRI政策フォーラム(第61回)基調講演資料

 

今の日本で、まずすべきなのは「少子化対策」ではない。何を置いてもまずは、女性の人権の尊重と、ジェンダーギャップの解消(なかでも経済格差の是正)を実現させるべきだ。

男女の格差が小さくなり、女性が今よりも経済的に自立でき、生き方の選択肢が広がったなら、わざわざ少子化対策を講じなくても、おのずと出生率が上がるのではないだろうか。

 

 

【参考URL】
■ 「出生率押し上げより男女平等を」 国連人口基金が提言 – 日本経済新聞
■ 女性を人口目標の道具にしない 国連人口基金、出生率の考え方を提言:朝日新聞デジタル
異次元の少子化対策とはいったい何か | 2023年 | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI)
「女性は子を産む機械」発言を絶対に許さない(2007年1月31日)●連合大阪

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