フリーライターの小林なつめです。
労働と性差別
労働分野における性差別というと、一般的に女性が差別を受ける側というケースがほとんどだ。低賃金労働に非正規雇用率の高さ、セクハラ・マタハラ…事例を挙げると枚挙にいとまがない。本当は男性差別もあるのだが、見えづらい構図となっている。その一つが「ガラスの地下室」だ。女性に「ガラスの天井」があることはよく知られているが、一方の男性には「ガラスの地下室」がある。
女性の受ける差別「ガラスの天井」
まずは女性などのマイノリティが差別を受ける側となる「ガラスの天井」について説明する。
「ガラスの天井」とは、本人の資質や能力は十分なのにも関わらず、性別や人種が障壁となって、昇進などのキャリアアップができない状況を比喩した表現だ。
1980年代後半、アメリカの新聞記事で女性のキャリアに関する問題として取り上げられ、広く用いられるようになった。「ガラス」は、キャリアアップできそうでできない「透明の、見えない障壁」を表している。
社会や企業が女性活躍を掲げているにも関わらず、実際には女性のキャリア構築が困難という現実は、今も変わっていない。
男性の受ける差別「ガラスの地下室」
次に男性が差別を受ける側となっている「ガラスの地下室」について。
こちらは1993年に、アメリカの社会学者ワレン・ファレルが提唱した。労働という側面から説明すると、土木や建設現場、あるいは兵役といった、心身ともに過酷で危険な現場で仕事を担うのはほとんどが男性で、それが当然のこととしてまかり通っていることを指摘している。命に危険の伴う仕事に性差があることは、「男性の精神と肉体を尊重していない」ことだという主張は、至極もっともだ。
さらに男性の場合、最も問題となるのは、女性と対比した時に彼らがマジョリティ(強者)であるがゆえに、そこにある差別や生きづらさが見落とされがちだという点だ。注目されなければ、差別や生きづらさを解消するためのうねりも生まれない。だからこそ「地下室」という閉塞的な空間に比喩されているのだろう。
男性差別からの解放運動「マスキュリズム」とは
「ガラスの地下室」を提唱したワレン・ファレルは、男性差別からの解放運動を「マスキュリズム」として、自ら活動を主導している。これはあたかもフェミニズムに対抗する動きのように見え、そのように考えている人も多いようだ。しかしこれは正しくない。ワレン・ファレルは熱心なフェミニストでもある。そして男女には、それぞれの抑圧の構造と差別、生きづらさが存在すると主張している。
大切なのは、そのどちらの差別にも同じように目を向けることだ。
ジェンダーについて考える時、「男性vs女性」という構図には何の意味もなさない。男性には男性としての、女性には女性としての主張がある。そして男性には男性の生きづらさが、女性には女性の生きづらさがある。それぞれの差別や生きづらさは両立し得る。例えば女性差別があるからといって、男性差別の存在を否定することはできない。
「天井」と「地下室」どちらも、性別役割分業から生まれた
男性差別である「ガラスの地下室」の根っこには、「ガラスの天井」の原因ともなっている性別役割分業がある。つまり性差別の原因は男女とも共通しているのだ。私たちがすべきことは、男女で敵対してそれぞれの不平不満をぶつけ合うことではない。耳を塞がず、それぞれの意見に耳を傾け合うことだ。それができれば、性差別や性別による生きづらさは少しずつ解消していけるのではないだろうか。
【参考URL】
■女は「ガラスの天井」、男は「ガラスの地下室」:日経ビジネス電子版
■「ガラスの天井」とは?働く女性の活躍を妨げる障壁を無くすためにできること |HR NOTE
■ガラスの天井とは? | JOC 女性リーダーの育成・支援 – Sports Woman Career Up
■ガラスの天井とは――意味と例、原因をわかりやすく解説 – 『日本の人事部』
■女性の社会進出拒むガラスの天井とは―女性活躍推進法が4月施行|政治・選挙プラットフォーム【政治山】
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