「子育て罰」ならぬ「チャイルドペナルティー」とは?「M字カーブ」ならぬ「L字カーブ」の時代に、女性たちは何を思うのか

「子育て罰」ならぬ「チャイルドペナルティー」とは?「M字カーブ」ならぬ「L字カーブ」の時代に、女性たちは何を思うのか

「子育て罰」ならぬ「チャイルドペナルティー」とは?「M字カーブ」ならぬ「L字カーブ」の時代に、女性たちは何を思うのかフリーライターの小林なつめです。

 

「子育て罰」、「チャイルドペナルティー」とは何か

「子育て罰」について、聞いたことのある人は多いかもしれない。子育て罰とは、子育てを「罰」だと感じるほど、子育て家庭に厳しい、現代日本の政治や、社会の在り方を揶揄した言葉だ。

「子育て罰」の由来に「チャイルドペナルティー」という言葉がある。こちらは「子どもを持つことで生じる、負担や所得格差による、社会的な不利益」を意味する言葉で、社会学や労働経済学の分野で使われる。出産、育児によるペナルティーを受けるのは、主に女性(母親)であるため、別名「マザーフッドペナルティー」とも呼ばれる。

ちなみに、チャイルドペナルティーは日本に限らず、世界の国々の状況を測るための指針であり、その度合いは国によって異なる。しかし、OECD加入国の中でも、日本のチャイルドペナルティーは顕著だ。

 

「M字カーブ」からの脱却は女性たちを苦しめる?

チャイルドペナルティーは、女性の就業率低下や収入減少を招く。日本の女性の就業率(労働力率)といえば、以前は「M字カーブ」を描くといわれていた。

かつての女性たちは、学校を出て一旦は就業するものの、結婚や出産を機に離職し、子育てが落ち着いた40代後半に復職する流れがスタンダードだった。この流れが、就業率のグラフにM字カーブとして表れていた。

「子育て罰」ならぬ「チャイルドペナルティー」とは?「M字カーブ」ならぬ「L字カーブ」の時代に、女性たちは何を思うのか
出典:男女共同参画白書 令和4年版

 

しかし近年、このM字カーブが解消に向かっている。上に挙げたのは、女性の就業率を示したグラフだ。一番下のピンクの線は1981年、真ん中の青い線は2001年、一番上の黄緑の線は2021年と、20年ごとの状況を表している。1981年には顕著だったM字カーブが、2021年ではかなり緩やかになっていると分かる。

M字カーブの解消は、労働力が減少している日本において、「女性活用」につながる「良いこと」であり、国は今後も解消を目指す姿勢を示している。

ところが、M字カーブの解消は、当事者の女性たちにとって、必ずしも「良いこと」ではない。それは、M字カーブが解消してきた理由に明らかだ。

 

M字カーブが解消した理由は、主に2つある。1つは、出産後も働き続ける女性が増えたこと。2つ目は、未婚女性が増えたことだ。

私自身、育児と仕事を両立する当事者であり、周囲にも同じ境遇の女性が多いが、出産後もそれ以前と同じように働き続けるのは、今の日本ではかなり困難だ。それは未婚女性の増加にも表れている。現状、結婚や育児は、仕事を続けていくハードルにしかならないのだ。

こう考えると、M字カーブの解消は、女性たちの苦しみの上に成立していると分かる。多くの女性が結婚、出産後も無理をして働き続けている。その選択肢を取らない人たちの中には、たとえ希望していても「ハードな結婚や育児を蹴っている」女性もいるだろう。

 

日本で遅々として進まない、ジェンダーギャップや性別役割分業。これらを解消せずに、M字カーブからの脱却だけを目指すと、女性たちをより苦しめる結果を生むのだ。

 

「L字カーブ」が示すのは働く女性たちの哀しい現実

M字カーブが解消しつつある一方、2020年には「L字カーブ」という新しい現象が問題提起された。L字カーブは、女性の正規雇用率を示したグラフにみられる。

「子育て罰」ならぬ「チャイルドペナルティー」とは?「M字カーブ」ならぬ「L字カーブ」の時代に、女性たちは何を思うのか
出典:男女共同参画白書 令和4年版

上に挙げたグラフの青い線が正規雇用率(L字カーブ)を表している。女性の正規雇用率は、20代後半をピークにL字カーブを描くほどガクッと下がり、それ以後は二度と上がらない。女性は学校を出て、一度は正社員として就職しても、出産や育児で退職すれば、もう正規雇用を望むのは難しい。

出産後の多くの女性が非正規雇用という身分で働いており、これが男女の圧倒的なまでの賃金格差を生んでいる。女性が、育児と仕事を両立させて必死で働いても、男性の収入に届くことはまずありえない。

チャイルドペナルティー(マザーフッドペナルティー)、M字カーブの解消、L字カーブ…これら全ての現象が、現代の働く女性たちの現実を映している。「育児は母親の仕事」という社会通念がなくならない限り、働く母親たちは育児と仕事の狭間で苦しみ続けるだろう。岸田総理の宣言した「異次元の少子化対策」は、果たして彼女たちを救うのだろうか。

 

【参考URL】
子どもを産むと年収が7割も減る…世界が反面教師にする日本の「子育て罰」のあまりに厳しい現状 「日本のようになってはいけない」と思われている (3ページ目) | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
チャイルドペナルティーとは――意味や調査結果などを解説 – 『日本の人事部』
Works175号 |リクルートワークス研究所
第3章 チャイルドペナルティとジェンダーギャップ|古村 典洋|財務総合政策研究所
Ⅲ 働く女性に関する対策の概況(平成15年1月~12月)|厚生労働省
◆ 日本人が「子育て罰」を感じざるをえない理由|@DIME アットダイム
“子育て罰”を受ける国、日本のひとり親と貧困/桜井啓太 – SYNODOS
「M 字カーブ」解消要因は既婚者へシフト|公益社団法人 日本経済研究センター
L字カーブとは――女性活躍推進に向けて必要なこととは – 『日本の人事部』

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