フリーライターの小林なつめです。
「女性の雇用は企業にとって、ハイリスク」
…すなわち「(結婚、出産、育児に伴う退職の可能性が高い)女性の雇用」がハイリスクということだ。
これを裏付けた事件として、「医学部入試における女性差別問題」は記憶に新しい。
「医学部入試における女性差別問題」は、女性であるということだけを理由に、入試の合格点数を不当に引き下げ、入学を抑制する行為が行われていた事件だ。
2018年に東京医科大で判明したのをきっかけに、複数の大学の医学部で同様の問題が確認された。
後に該当の大学では性別による差別が是正され、2022年の入試では女子の平均合格率が男子を上回った。
しかし、この結果だけを見て「めでたし、めでたし」とは言えない。まだ根本的な問題解決がなされていないからだ。
なぜ医学部入試でこのような差別が行われたのか、考えてみたい。
その理由は、冒頭に述べた通りだ。女性医師の増加は、医療業界にとってハイリスクでしかない。
そもそも医師は過重労働が当たり前の職種だ。業務量が多く、慢性的に人手が足りていない。
さらに当直もあって休暇の確保が難しく、結果的に勤務時間が長くなる。そのため、女性医師が産休や育休をとったり、早期離職したりすることが、業界全体の負担となってしまうのだ。
そしてこれは医療業界だけの問題に留まらない。
どんな業界のどの企業でも、妊娠の可能性がある女性を雇用するのは、男性と比べてリスクが高いと判断するだろう。
一方で、社会が継続、発展していくためには家庭を運営し、子育てをする人材が必要だ。そこでこれまで長い間、妻であり母親である女性たちが、その役割を担ってきた。
「男性は外で仕事をし、女性は家庭を守る」という価値観による、性別役割分業だ。
女性の労働力が求められるようになっている現代では、このような性別役割分業に無理が生じてきた。
妻や母親である女性は、家事や育児をこなしつつ、男性と同じように仕事もしなくてはならない。
その結果、女性の労働時間+家事育児時間は、男性のそれを大きく上回るようになった。
今も「家事・育児は女性が担うべき」という社会の意識は強い。
それに違和感や疑問を抱きつつも、ほとんどの女性が状況を受け入れざるを得ない状況だ。
本来、育児は子どもの母親だけが行うべきものではない。
パートナーである父親は言うまでもなく、親戚や友人、職場の上司や同僚などの身の回りの人々はもちろん、一見その親子に無関係なく、その日偶然にすれ違った人も、知らないうちに育児に参加している。
子どもは個人が育てるものではなく、社会で育むものだからだ。
女性の雇用をハイリスクとする社会では、ダイバーシティの実現など、夢のまた夢だろう。
社会はそれを構成する1人ひとりがいて、初めて成り立つ。
子育て世代に投げつけられる「自己責任論」など、全くの論外だ。
「他人の子育てであっても、社会の一員である自分が支えている」、そう考えれば、人生がより豊かになるのではないだろうか。
【参考サイト】
「育児は女性のもの」が覆い隠す社会の歪み――見え始めた「母性愛神話」の限界 – Yahoo!ニュース
医学部入試における女性差別問題とは – コトバンク
医学部合格率、男女逆転 差別是正か 不正入試で文科省調査 – 産経ニュース
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