「男性のケア力」ケアリング・マスキュニティとは?男性にまつわるケアの矛盾【男性問題について考える②】

「男性のケア力」ケアリング・マスキュニティとは?男性にまつわるケアの矛盾【男性問題について考える②】

「男性のケア力」ケアリング・マスキュニティとは?男性にまつわるケアの矛盾【男性問題について考える②】|リアンブルーコーチング舎

フリーライターの小林なつめです。

 

ケアリング・マスキュニティとは

伊藤公雄氏の著書『男性危機? 国際社会の男性政策に学ぶ』を読んでいて、「ケアリング・マスキュニティ」という言葉を見つけた。

「男性のケア力」ケアリング・マスキュニティとは?男性にまつわるケアの矛盾【男性問題について考える②】

近年、EUなどで注目されている概念で、日本語でいうと「ケアする男性性」や「男性のケア力」となる。

伊藤公雄氏は、この「ケアリング・マスキュニティ」に、2つの側面があると考えている。

1つはケアする力、男性が主体となって行うケア。もう1つはケアされる力、すなわち、ケアを受容する力だ。男性はこの両方の力が乏しいという

 

なぜ男性には「ケアする力」と「される力」の両方が乏しいのか

しかし、私はここに矛盾を感じた。

というのも、これまで男性は家事や育児、介護、看護といったケア労働を妻や母親に任せ、主体的には関わらないケースがほとんどだった。自分の子どもや親、そして自分自身のケアを、妻に押し付けていたのだ。

つまり、一般的な傾向として、男性は1つ目の「ケアする力」はあまりないと分かる。しかし2つ目の「ケアされる力」は十分に持っているはずなのではないだろうか

伊藤氏曰く、男性に「ケアされる力」がないのは、「ケアされることは他者に依存すること」で、他者に依存すると「男性性を失うと思い込んでいるから」だという。ゆえに「ケアを素直に受容できず、自分の要求をスムーズに出せない男性もいる」らしい。

つまり男性はケアする力を持っていないし、実際にケア労働に関わることもなく、周り(主に女性)にケアされていることが多い。

それなのに、他者に依存しないこと、自分のことは自分ですることが男らしい姿だと、「自立幻想」を抱いており、自分がケアされていることに気が付いていないというのだ。

 

男性の「自立幻想」は高齢化社会の足かせとなっている

男性に巣食う「自立幻想」は、とても厄介だ。

「自立幻想」のある男性は、「周囲のサポートに依存して生活を送っていること」を認識できず、「自分は自立している」「自分のケアは自分でしている」と、勘違いしている男性も多い。

だから、介護される立場になってもなお、他者に依存していると認識できず、ケアしてくれる人たちに感謝することもない。それどころか、威張ったり怒ったりすることすらある。

男性のケアリング・マスキュニティの欠如は、高齢化社会において、大きな課題となっている。ケアを素直に受け入れ、ケアする側とよい関係を築くには、まずはされる側が自分の弱さ、他者に依存している状況を認める必要があるのだ。

ここでもまた、「有害な男らしさ」が、男性たちの足を引っ張っている。ただでさえ人手不足の介護業界。彼らのような高齢男性は、ケアする側の人たちに疎まれてしまうのではないだろうか。

 

「ケアリング・マスキュニティ」のために女性にできること

だからこそ、男性にも生活力、さらにいえば「ケアする力」が必要なのだ。

自分で自立した生活を送り、誰かのケアをする経験をすれば、ケアする側の気持ちが分かり、「ケアされる力」も身に付くだろう。

その経験をするのにうってつけなのが、自身の子どもの育児だ。男性が「ケアリング・マスキュニティ」をつけるためには、育児への主体的な参加が効果的といえる。

しかし、今でもSNSなどでは、出産時の入院前に、夫の食事を作り置きしておく女性の姿が散見される。これでは子どもの世話どころか、自分の面倒も見られない男性が増えて当然だ。

たとえ専業主婦であろうと、産前産後の場面で夫の世話を焼き過ぎるのはやめた方がいい。多くのケースで、産後に後悔する瞬間がやってくるからだ。

 

「ケアリング・マスキュニティ」で多くの人が幸せになれる

私の親も含め、母親世代を見ていると、専業主婦が多かったという時代背景もあり、夫の世話を我が子同様にしてきたことを、老後に後悔している女性が非常に多い。

現代では共働きの家庭が増えたのに伴い、「ケアする男性」が増えつつあるといえ、まだ十分とはいえない。何しろ日本では、6歳未満の子どもを持つ男性のうち、なんと7割もの男性が、妻にワンオペ育児をさせているというデータ(2019年調べ)があるほどなのだ。

男性がよりよい人生を送るには、「有害な男らしさ」からの脱却が不可欠だ。そうすれば、「ケアリング・マスキュニティ」を身につけやすくなり、本人はもちろん、周囲の人々をも、幸せにできるだろう。

 

 

【参考図書】

『男性危機? 国際社会の男性政策に学ぶ』伊藤 公雄ほか/著 晃洋書房 2022.11

「男性のケア力」ケアリング・マスキュニティとは?男性にまつわるケアの矛盾【男性問題について考える②】

新しい男性の役割に関する調査報告書(笹川平和財団)

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