フリーライターの小林なつめです。
先日、近所を歩いていたら、スラックスを履いている女子中学生とすれ違った。そういえば最近、近くの中学校は、いわゆる「ジェンダーレス制服」になったらしい。
彼女は長い髪を後ろで一つにまとめていた。カバンにはかわいい系のマスコットがジャラジャラ揺れている。私の勝手な推測ではあるけれど、ジェンダーに合わせた選択というわけではなさそうだ。単にズボンの方が動きやすいから履いているのかな、などと考えた。
スカートは「女性らしさ」の記号として生まれた
考えてみると、活動しやすい機能性が魅力のズボンに対して、スカートは機能性が低い。ズボン派の私からすると、「ズボンには着る「意義」があるが、スカートにはないのでは?」と思うほどだ。極論をいえば、ズボンはないと困るけれど、スカートはなくても困らない…スカートはどちらかというとビジュアル重視というか、女性の「記号」としての意味合いが強いように思う。
ファッションの歴史を見ても、かつてヨーロッパで女性がズボンを履くのを禁じられていたのは、ズボンが男性の象徴だったからだ。家父長制の社会において、女性はあくまで男性に従属する性だった。ゆえに女性には、「活動するための衣類」であるズボンを履く権利が与えられなかった。
「女性の地位の低下は、服飾の性別対立【ズボン対スカート】を顕著にする」という説や、「男性が女性と一線を画し、性的に支配するために、女性にはスカートしか許されなかった」とする説もある。動きにくく無防備であると同時に、足を露出させるスカートは、男性が女性に「女性らしさ」の記号を付けるために生まれたのだ。
参考:青柳 蓉子「服装の性差:なぜ女性しかスカートをはかないのか」
女装をする男性の心理とは
そういえば、女装する男性たちはいかにも「女性らしい」服装を好む傾向にある。ボトムスでいえば、スカートやワンピース、ショートパンツ姿が多いのではないだろうか。そもそも、長ズボンを履いていては、女装をする意味が半減するように思える。
女装をする男性の心理について考えてみよう。まず考えられるのは、男性の服に比べて、女性の服の方が彩りもよく、きらびやかなので、純粋にファッションの楽しみに魅力を感じているパターンだ。しかし女装経験者が初めて女装をした時の感想として、よく「心が浮き立った」「開放感があった」などと語るのは、どういうことだろう。
この感想から考えるに、女装をする一番の理由は「男性の役割、重荷から逃れられる」ことなのではないだろうか。もちろん女性には女性の生きづらさがある。しかし「女装をした男性」はあくまで男性だ。女装をしたところで、女性の生きづらさを真に体験することはあまりないかもしれない。
男性らしさ・女性らしさからの脱却
つまり男性が女装をすると、男性「らしさ」から解放され、かといって女性「らしさ」を強要されるわけでもない。性別の枠に囚われずにいられるのではないだろうか。
先日離婚を発表したタレントのりゅうちぇるも、その原因を「男・夫としての役割が重荷だった」としている。彼は日頃から多様性やジェンダーレスな価値観・生き方について発信していた。そんな彼ですら性別による役割に、かなりの重荷を感じていたのだ。それほどまでに「男らしさ」の呪縛は重いのかと、改めて思い知らされた一件だった。
「装い」にはさまざまな意味合いがあるが、これから先、性別による「らしさ」から脱却するという意味合いからも、ファッションはますます多様化を遂げていくのではないだろうか。
【参考URL】
◆女装が趣味な男性の心理 | マイナビニュース
◆「男らしさ」が嫌になった男性が一年間女装をした結果 (2015年8月16日) – エキサイトニュース
◆男の娘の深層心理 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
◆男装にハマる女性の理由と、キレイに男装するための9個のポイント | CoCoSiA(ココシア)
◆服装の性差:なぜ女性しかスカートをはかないのか 青柳 蓉子 (東北大学文学部)
◆変態ではない!女装生活は「男性の解放」だ | 今週のHONZ | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース
◆りゅうちぇる語る、ジェンダー以前に考えるべきこと | Tarzan Web(ターザンウェブ)