兵庫県豊岡市の取り組み事例:「女性活躍」ではなく「ジェンダーギャップの解消」を目標に

兵庫県豊岡市の取り組み事例:「女性活躍」ではなく「ジェンダーギャップの解消」を目標に

兵庫県豊岡市の取り組み事例:「女性活躍」ではなく「ジェンダーギャップの解消」を目標に

フリーライターの小林なつめです。

地域から若い女性がいなくなる原因は?
今から10年近く前、2014年に話題になった、「消滅可能性都市」のレポートを知っている人は多いのではないだろうか。消滅可能性都市とは、将来的に20〜30代女性が半減することで人口が減り、消滅の可能性がある都市(地方自治体)だ。

すなわち出産可能な年齢の、若い世代の女性が減ることで、人口が減ることを危惧している。まさにその対象に当たる私からすると、はっきり言って「嫌な感じ」だ。考え方が、ひと昔前の某大臣による「産む機械、装置」発言と変わらないように思える。

女性たちが消滅可能性の高い自治体を出ていくのには、それ相応の理由があるはずだ。

暮らしにくい、仕事がない、環境が悪いなど…どこに住むのかは自由で、なんらかの理由があって、その土地を離れた彼女たちに非はない。原因があるとしたら、その地域にあるはずだ。

「ジェンダーギャップ解消」を目指した兵庫県豊岡市の前市長
若い世代の女性たちが、地域を離れる原因を「ジェンダーギャップ」にあると考えた人物がいる。4期16年にわたって兵庫県豊岡市長を務めた、中貝宗治氏だ。中貝氏は2018年に「ジェンダーギャップ解消」を打ち出し、取り組みを進めた。

そのきっかけとなったのは、「若者回復率」の調査結果だった。若者回復率は、10代で豊岡市から転出した人と、20代で転入した人の割合を比較した、市独自の指標だ。一般的に、若者は進学のために地元を去り、その後就職や結婚を機に、地元に戻る傾向にある。

この調査により、豊岡市には「若い女性が出ていったっきり、戻ってきていない」と分かった。同世代の男性と比較すると、女性は半数ほどしか戻ってきていなかったのだ。

中貝氏は女性が地元に戻ってこない原因を「ジェンダーギャップ」にあると考えた。

中貝氏は「無意識の差別を認められる」人物だった
中貝氏の語った、印象深い言葉がある。豊岡市役所の女性職員について、顧みた発言だ。

「市役所でも女性管理職は少なかった。結婚すると退職を促すような雰囲気もあった。しかし市職員へのアンケートで見えた女性職員の本意は、現状と違った。」

「市役所の経営者として、彼女たちにすまなかったと思った。女性たちへのフェアネス、公正さに欠けていた。意識して女性を差別していたわけではないが、無意識で続けてしまっていた。」

『「男女格差後進国」の衝撃』の著者、治部れんげ氏は、中貝氏のこの発言に対して、「女性活躍を前向きなこととして語る経営トップはたくさんいますが、過去を率直に振り返り、反省し女性に詫びる中貝市長のようなリーダーを見たのは初めて」と述べている。

「差別は良くない」。そう当たり前に言われるが、実際には差別は特別なものではなく、ごくありふれたものだ。

そして「悪意のない」差別ほど、厄介なものはない。悪意のない、無意識の差別や偏見は、被害者でさえ気付くのが難しい。いわんや加害者をや。大多数のマジョリティは自分の特権や加害に気付かないし、指摘されても認められない。

治部氏の言う通り、市長という肩書きを持つマジョリティ(男性)でありながら、自身の特権に気がつき、マイノリティ(女性)に対して「申し訳ない」と感じ、具体的な行動まで起こした中貝氏は、稀有な政治家だったはずだ。

「女性活躍」と「ジェンダーギャップの解消」
「女性活躍」は、ポジティブな政策として世間に受け入れられ、男性政治家たちが我が物顔で主張するテーマとなった。一方で「女性活躍」と重なる部分も多く、密接な関わりを持つ「ジェンダーギャップの解消」は、語られることが少ない。

この理由は、「ジェンダーギャップ」は男女間格差を指す言葉だからではないだろうか。マジョリティである男性側にとっては、加害者として糾弾されているような、ネガティブな印象があるのかもしれない。

しかし、ジェンダーギャップの解消は、決して女性だけのために目指されるものではない。ジェンダーギャップによる生きづらさを抱えた、男性をも救うものだ。

中貝氏のように、自らの立場を客観的に見て、感情を挟まずに冷静な判断ができる人(特に男性)が増えれば、日本のジェンダーギャップ解消への展望が拓けるのではないだろうか。

 

【関連サイト】
兵庫県豊岡市の取り組み事例:「女性活躍」ではなく「ジェンダーギャップの解消」を目標に【本レビュー】臆せずに一人の人間として声をあげよう「男女格差後進国」の衝撃:治部れんげ著
【本レビュー】臆せずに一人の人間として声をあげよう:「男女格差後進国」の衝撃治部れんげ著|リアンブルーコーチング舎

【参考本】
『「男女格差後進国」の衝撃』治部れんげ/著 小学館 2020.10
「男女格差後進国」の衝撃: 無意識のジェンダー・バイアスを克服する (小学館新書)

【参考サイト】
若い女性はなぜ消える~ジェンダーギャップ解消を目指した兵庫県豊岡市~ | NHK政治マガジン
「能力で選んだら男ばかりになりました」と言っているうちに誰もいなくなる日本【小島慶子】 | 小島慶子 潮目の私たち | mi-mollet(ミモレ) | 明日の私へ、小さな一歩!
2020年 都道府県人口移動「男女バランス・ランキング」/平均1.4倍の女性が転出超過という事実―新型コロナ人口動態解説(5) | ニッセイ基礎研究所
10+1 website|消滅可能性都市との向き合い方|テンプラスワン・ウェブサイト
消滅可能性都市のウソ。消えるのは、地方ではなく「地方自治体」である。 (No.1016) | 経営からの地域再生・都市再生 [木下斉] – 経営からの地域再生・都市再生 [木下斉]
差別はたいてい悪意のない人がする – 株式会社 大月書店 憲法と同い年
「男女格差、世界121位」になぜかイラつく男たちが続出。原因はメディアの呪いにあった? | Business Insider Japan
見過ごしがちなジェンダー問題、「男性の生きづらさ」を考える。|Pen Online

 

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