フリーライターの小林なつめです。
上野千鶴子氏の祝辞における性差別の指摘
東京大学における教育と性差別について、前記事では「女子学生の少なさとその原因」を考察した。
記事中で一部引用した「平成31年度東京大学学部入学式 式辞」は、東大名誉教授の上野千鶴子氏によるものだ。当時この祝辞は世間の注目を集め、賛否両論を巻き起こした。
日本の最難関大学の、入学式という晴れの場で、上野氏は東大における男女差別について訴えた。見方によってはセンセーショナルとも言える内容だったが、大学側は事前に確認した上で、干渉しなかったそうだ。
もしかすると女性学の権威である上野氏に祝辞を依頼した時点で、大学側もこのような方向性の祝辞を期待していたのかもしれない。
東大は「ジェンダー平等」達成に躍起?
祝辞にも出てくるが、東大の女子学生の割合が現状2割ほどに過ぎず、国際的に見てかなり少ない部類というのは、前回の記事で述べた通りだ。東大は2011年から「2020年までに学生の女性比率30%達成」を目指していたが、叶わなかった。
しかし2021年には執行部の体制を刷新し、理事8人中5人に女性を据えた。さらに2022年6月には「東京大学 ダイバーシティ&インクルージョン宣言」を制定。このような動きからも、東大が「ジェンダー平等」の分野で世界に出遅れていることに、大きな危機感を抱いていると察せられる。
大学においてジェンダー平等が重視される理由
そもそもなぜ、大学において…アカデミック(学術的)な分野では、ジェンダーの取り組みが不可欠なのだろうか。それを考えるために必要なのが「ダイバーシティ=多様性」だ。この視点については「令和4年度東京大学大学院入学式 総長式辞」でも語られている。
多様性を受け入れない社会では、集団の中の多数派が「スタンダード」となる。モノの見方や価値観は多数派の基準に大きく偏り、マイノリティは疎外される。
女性は社会の構成員のうち半数を占めるにも関わらず、長年男性という「スタンダード」から外れた存在に過ぎなかった。結果、女性自身の利益や権利は奪われ、本来あるはずだった社会のカタチも損なわれた。
このような歴史を鑑みると、画一的で偏った視点や考え方は、より良い社会を目指す上での足枷となると分かる。大学は自由な学びの場だ。より良い学びを生み出すには、多角的な視点と柔軟な発想が必要となる。そのために、ダイバーシティの考え方に基づくジェンダー平等が重要なのだ。
【参考URL】
◆上野千鶴子「私が東大祝辞で伝えたかったこと」 | リーダーシップ・教養・資格・スキル | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース
◆令和4年度東京大学大学院入学式 総長式辞 | 東京大学
◆東大が悩む女子学生「3割の壁」 世界に遅れるジェンダーギャップ解消 | NHK
◆賛否両論を呼んだ東大入学式祝辞。実際どうだった? 東大生100人に聞いてみた|新R25 – シゴトも人生も、もっと楽しもう。
◆一般事業主行動計画 | 東京大学男女共同参画室
◆東大・大人気「ジェンダー論」教授、「森発言のどこが悪い」派に伝えたいこと|社会|中央公論.jp
◆東大は「女子2割」の壁をなぜ超えられない?「男性中心の東大」が生む社会の偏り
◆アカデミックキャリアにおける「多様性の尊重」と「生産性」を意識した働き方─長崎大学における取組の紹介
◆東京大学 ダイバーシティ&インクルージョン宣言についての説明文書