
フリーライターの小林なつめです。
この記事を書いている2025年10月上旬。ここのところ、与党の新総裁となった高市氏の発言によって、「ワーク・ライフ・バランス」が耳目を集めています。
SNSでもワーク・ライフ・バランスをめぐる議論が白熱していて、あらゆる立場の人たちが、思い思いの意見を述べているような状況です。
さまざまな人々の意見を目にする中で、ちょっとした発見をしました。
それは、ワーク・ライフ・バランスは、必ずしも「仕事と家庭生活(家事・育児・介護)の両立」を意味する言葉ではないということ。
自分の中に、「ワーク・ライフ・バランスという概念は、仕事と家庭の両立のためにある」という思い込みがあるということに気付いたのです。
そこで今回は、実はこれまでテーマとして取り上げたことのなかった「ワーク・ライフ・バランス」について、深掘りすることにしました。
ワーク・ライフ・バランスは、その名の通り、仕事と生活の調和のこと。
平成19(2007)年に定められた「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」では、以下のように定義されています。
「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」
簡単にいえば、「やりがいある仕事をしつつ、それ以外の生活においても、人生の各ステージにおいて、さまざまな生き方の選択ができる」という感じでしょうか。
より具体的には、以下3つのような社会を目指しているそうです。
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(1)就労による経済的自立が可能な社会 (2)健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会 (3)多様な働き方・生き方が選択できる社会 |
1は主に仕事(ワーク)、2は主に私生活(ライフ)、そして3はそれらの選択やバランスについて、目指すべき社会をまとめています。
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(1)就労による経済的自立が可能な社会…経済的に自立できる仕事に就き、ライフプランの実現に向けて、暮らしの基盤を整えられること。 (2)健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会…働く人々が健康で、かつ家族や友人と過ごす、あるいは自己啓発や地域活動への参加ができる時間を持てること。 (3)多様な働き方・生き方が選択できる社会…誰もがさまざまな生き方や働き方に挑戦でき、子育てや介護が必要な場合にも、多様で柔軟な働き方を選択し、公正に処遇されること。 |
私がワーク・ライフ・バランスだと思っていたのは、どうやら主に3の要素のようです。
でも、この考えもあながち間違いだとは言い切れません。
なぜなら、ワーク・ライフ・バランスの始まりは、1980年代後半にアメリカの企業が始めた、ワーキング・マザーの仕事と家庭の両立を支援する「ワーク・ファミリー・バランス」だといわれているからです。
一方の日本では、1985年施行の「男女雇用機会均等法」をきっかけに、主に女性を対象とした仕事と家庭の両立支援や、働き方改革に、目が向けられるようになりました
これが「日本版ワーク・ライフ・バランス」の契機だと考えていいでしょう。
その後、1990年代初頭のバブル崩壊により、雇用システムや人々の労働への価値観に変化が生じ、さらには「1.57 ショック※」で、少子化が決定的になりました。
※1.57 ショック…出生率が過去最低の1.57を記録した出来事。
さらには、就業形態の多様化による非正規労働者の増加や、若年者・高齢者の労働問題、格差社会やワーキング・プアなど、労働に関する社会問題が次々に持ち上がりました。
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・労働に関する機会や処遇の性差 ・雇用システムの変化 ・労働や生活に関する人々の価値観の変化 ・少子高齢化 ・非正規労働者の増加 ・若年者や高齢者の労働問題 ・格差社会 ・ワーキング・プア |
1985年以降、少しずつ明らかになってきた、あらゆる雇用・労働問題を内包して、2007年に初めて、日本の「ワーク・ライフ・バランス」が誕生したのです。
参考:労働政策研究・研修機構 労働政策研究報告書 No. 116
2010 「ワーク・ライフ・バランス比較法研究」
確かに、ワーク・ライフ・バランス導入のきっかけは、女性の労働や働き方、家庭との両立にあったかもしれません。
しかし、その目的は、やりがいのある仕事をしつつ、仕事以外の時間も確保し、自分の生活を充実させることであり、老若男女、全てのステージにいる人が対象となっているのです。
今回の気付きをきっかけに、自分の視野が狭くなっていたことにハッとさせられました。
子どもを持ってからというもの、生活のほとんどが、仕事・家事・育児だけで構成されていたので、「WLB=仕事と家庭の両立」という考え方に、違和感すら覚えなかったのです。
でも、仕事と家庭の両立に悩まされる期間って、実際どれくらいでしょうか。
今、我が家の子どもは7歳(小2)と3歳。
未だに上の子ですら、家にいれば親べったりの状態も多く、時にはトイレにまで話しかけにくることがあるので「あ~1人になりたい!」と思うことも少なくありません。
でも…あと4、5年もして小学校高学年になれば、子どもも自分の社会を築き、親の行動になど付き合ってさえくれなくなるはずです(今はまだ信じられませんが)。
そう考えると、子どもとべったり過ごせるのは、人生のほんの一部に過ぎないんですよね。
子どもが手を離れても、私たちの人生はまだまだ続きます。次のステージに進んだ時には、また新たなワーク・ライフ・バランスの形が私たちを待っているのでしょう。
【参考】
内閣府男女共同参画局「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」
内閣府男女共同参画局「政府の取組」
内閣府男女共同参画局「仕事と生活の調和とは(定義)」
内閣府男女共同参画局「推進本部・会議等」
内閣府男女共同参画局「欧米諸国におけるワーク・ライフ・バランスへの取組」
労働政策研究・研修機構 労働政策研究報告書 No. 116 2010 「ワーク・ライフ・バランス比較法研究」
健康経営の広場「働き方改革、ホワイト企業の源流は?ワーク・ライフ・バランス史」
マイナビキャリアリサーチLab「ワークライフバランスとは?言葉の意味や歴史、企業の取り組み例も紹介」