フリーライターの小林なつめです。
私はこれまで、何度か「男性育休」をテーマに記事を書いてきました。
最初に「男性育休」というテーマを取り上げたのは、「『男性育休』取得は妻のため?実は『夫本人』のためでもあるんです」という記事で、この記事を書いた2022年は、男性育休に関する法改正の施行が始まった年でした。
当時、政府は3年後の2025年までに、男性の育休取得率を30%に引き上げることを目標に掲げていました。
男性育休取得率は確実に上がってきている
実際のデータはどうなっているでしょうか。
厚生労働省の資料によると、なんと2023年時点で男性の育休取得率30.1%と、2年早く目標を達成していたことが判明しました。(それに伴い、政府目標が引き上げられています)
出典:厚生労働省「令和5年度育児休業取得率の調査結果公表」
参考:厚生労働省「こども未来戦略方針等について」
私の周りでも、育休を取る男性が増えつつあるように感じてはいたのですが、実際に数字で成果が出ているのを見て、こちらまでうれしくなってしまいました。
とはいえ、男性育休の壁はまだまだ高く、男性が取得している育休の期間は、2023年時点でも、その多く(約86%)が1カ月未満に留まっているという現実があります。
出典:参照:厚生労働省「令和5年度育児休業取得率の調査結果公表」
「子育てする父親」の実態調査
実際、育休取得や、仕事と育児の本格的な両立は、男性にとって、生半可な覚悟でできるものではありません。
少し古い資料ですが、2018年出版の『イクメンじゃない「父親の子育て」』という本で、「子育てする父親」として、調査対象とされた男性たちの実態が興味深かったので、紹介します。
この調査は2013~2015年にわたって行われたもので、調査対象となった男性9人は全員、末子が12歳以下の子どもがおり、主体的に育児に関わっています。
妻と自分の仕事を同等に考えているAさんとBさん
インタビューの中に「子どもが病気のときの対応」に関する質問があり、「妻と調整する」と答えたのは、9人中AさんとBさんの2人だけでした。
AさんとBさんは「妻も働いた方がいい」と考えており、妻の仕事と自分の仕事を同等に考えています。そのうえで、男性として1人で稼ぎ手役割を背負う「男らしさ」へのこだわりよりも、夫婦2人で稼ぎ手役割を担うことを優先しているのです。
彼らは、家庭と職場、両方の領域で、自分の居場所を確保する努力をしています。
まずは家庭領域を見てみましょう。
毎朝子どもを保育園に送り、週に何日かはお迎えもしています。お迎え後には夕食の準備や食事の介助、お風呂、寝かしつけなど、家事・育児の全てをワンオペで担っています。
こうして主体的な子育て役割を担うことで、妻や子どもと良好な関係を築き、家庭領域に居場所を得ているのです。
一方の職場領域はどうでしょう。
AさんとBさんの2人は、普段から、自分が主体的に育児をしていることを、職場領域のメンバーにアピールしており、それを受け入れられ、配慮されているといいます。
しかし、主体的に子育てをしていても、仕事の量や責任が、他より少ないわけではありません。実際、彼らの労働時間数は約10時間と、調査対象である9人の中でも長い方です。
彼らは育児や家事にあてた時間を、仕事を持ち帰ったり、睡眠時間を削ったりすることで「24時間のつじつま合わせ」(Aさん談)をしています。
他の人に負担をかけずに、自分の仕事の役割と責任を果たし、職場領域での居場所を保持する努力をすることで、メンバーの一員として認められているのです。
子育てを「許される」女性と、そうでない男性
AさんとBさんの2人は、「男並み」に働きながらも、母親と同等に「ケアとしての子育て」に関わろうとしていることが分かりました。
女性は「出産する性」であることから「子育てして当たり前」の性別として、子育て役割を許されています。
しかしそれは「許し」であるとともに「強制」でもあり、働く女性たちの多くが、家庭と職場での板挟みで苦しんでいます。
一方で、「子育てを許されていない」性別である男性が、家庭と職場の両方で居場所を確保するのには、女性とは違う方向性での、努力や立ち回りが必要です。
さまざまなスキルが必要なので、誰にでもできることではないかもしれません。
それでも、社会情勢の変化やICT技術の発展により、リモートワークなど働き方が柔軟になってきたうえ、「男性育休」に対する理解が深まり、風土も醸成されつつある現代。
今こそ、男性が育児領域に参入する、この上ないタイミングなのではないでしょうか。
参考:『イクメンじゃない「父親の子育て」 現代日本における父親の男らしさと<ケアとしての子育て>』巽 真理子/著 晃洋書房 2018.5