女性と笑顔~私的経験と考察を通して

女性と笑顔~私的経験と考察を通して

女性と笑顔~私的経験と考察を通して

フリーライターの小林なつめです。

 

私は、自分で言うのもなんですが、笑顔に定評があります。

学生時代から周りに「笑顔が素敵」「よく笑うところがいい」と言われることが多く、当時からそのことを、おおむねポジティブに受け止めていました。

笑顔は私の武器であり、強みだと考えていたのです。

 

私は「なんで笑っているの」か

でもある日、そんな私の認識を覆すできごとがありました。

東京で配属された職場で、上司にあたる年配の男性職員と、何でもない会話を交わしていたとき。「なんで笑ってるの?」と訊かれたのです。

私は一瞬混乱し、少し憤慨しました。「空気を良くするために、努めて笑っているのに、理由なんてあるわけないじゃないか?」と。

でも、そう訊いてきた彼には悪意はおろか、他意があったわけではありません。ただ私がいつも笑っている(微笑んでいる)様子を不思議に思い、訊いてきただけだったのです。

そして、私はその指摘を受けて初めて、「私は他の人より笑っているらしい」「それも無意識に笑っている」「にも関わらず意図的に笑っている」ことに気づかされたのでした。

女はキレイであるために笑顔でいなければならない?

話は変わって、1996年に発売されたホフディランの「スマイル」という曲を、2021年にある女優さんがカバーし、製薬会社のCMソングに採用されて話題となっていました。

いつでもスマイルしようね
可愛くスマイルしててね
上手にスマイル出来るね

こんなふうに笑顔を強要するような歌詞が続く構成で、「そんなことを言われずともいつも笑顔」の私でさえ、違和感と軽い恐怖を覚えていました。

この違和感が増幅したのは、この曲を長男が口ずさんでいるのを聞いたときです。

「いつでもスマイルしててね
深刻ぶった女はキレイじゃないから」

子どもが歌うと、この歌詞のグロテスクさがさらに際立って聞こえました。

 

女はキレイでいないといけない
そのために、いつでも笑顔である必要がある

 

結局はそういうことを言っている歌だと分かったからです。

「私は女だから、笑って許されようとしていたのか?」とさえ思いました。

(余談ですが、TVを見ない長男がこの曲を知っていたのは、学校行事で使われていたからです。さすがに「この選曲はないだろう…」と脱力しました。)

宇野亜喜良氏の描く「笑わない女性」

またまた話は変わって、先日、イラストレーター宇野亜喜良氏が出演していた、NHKの美術番組を見ました。

宇野亜喜良氏は、女性のイラストを描くことで有名ですが、彼の描く女性たちは笑っておらず、憂いや反抗心など、さまざまな思惑を秘めたまなざしをしています。

番組で、女性キャスターが宇野氏の絵を見ながら「宇野さんの描く、1人ですんと立っている女の子の強さに憧れ、共感がある」と話したところ、宇野氏は以下のように返しました。

「よく大衆雑誌というかタレントさんがカバーにいるとき、大体にっこりさせてますよね。(中略)ふだんにっこりして生活している女の子はあまりいないと思うんですよね。」
「むしろ何%かは、社会に対して不満のある存在の方が面白いですよね」

私も「笑わなくていい」

この発言に、私はどこか救われたような気持ちになりました。

昔はそうではなかったと思うのですが、私はいつの間にか自分の笑顔を、本当の気持ちや考えを隠すための、仮面にしてしまっていたようです。

でも、宇野氏の発言を聞き、「女だからって、こびなくていい」「笑顔でごまかさなくていいんだ」と思うことができたのです。

今思えば、冒頭の上司の「なんで笑ってるの?」発言も、「笑う場面ではないのに」「笑わなくていいのに」という意味が込められていたような気がします。

いうなれば彼は、私が笑わないでいることを認めてくれていたのです。

「女は愛嬌」という言葉がありますが、もうそんな時代は終わりつつあるのかもしれません。

【参考】
オロナミンCの曲は「スマイル」でいいのか|高野光平(こうの・こうへい)
スマイルの歌詞がひどい声も! 無理矢理感がある?歌詞が心に響くと評判の楽曲
「深刻ぶった女はキレイじゃない」って歌詞はモラハラか? そもそもモラハラって何か?(ホフディラン「スマイル」の歌詞を考える)
90歳で第一線のイラストレーター、宇野亞喜良さんが大規模個展 こびない女性の世界観はどう作られる?

女性活躍カテゴリの最新記事