かつて存在した図書館の「婦人閲覧室」は、現代の「女性専用車」か?

フリーライターの小林なつめです。

 

皆さん一度は利用したことがあるであろう、街の図書館。

司書として働いてきた私自身にとっては、なじみ深い職場でもあります。

でも、そんな私でもお目にかかったことがないのが、図書館の「婦人閲覧室」です。国内に現存する婦人閲覧室は数少ないので、多くの方が、存在すら知らないのではないでしょうか。

 

婦人閲覧室とは?

婦人閲覧室は、女性専用の閲覧室のことです。

明治・大正・昭和戦前期まで、ある程度以上の規模の図書館には、男性が利用する「普通閲覧室」のほかに、女性用の婦人閲覧室が設けられていました。

婦人閲覧室は、座席数が普通閲覧室の1、2割程度で、スペースも狭かったそうです。

かの樋口一葉は、明治24(1891)年の日記に、上野の東京図書館について「図書館は例のいと狭き所へおし入られるるなれば」と書いています。

ほかにも、明治45(1912)年の新聞記事には男性記者が、婦人閲覧室を「座敷牢」に例え、昭和5(1930)年になってなお「どこの図書館に行っても婦人閲覧室はとかく虐待され勝ちで広くもない部屋をあたえられています」と、書かれるありさまでした。

 

婦人閲覧室が必要だった理由

とはいえ、そんな婦人閲覧室にも設置されていた理由があります。当時の「暗黙の了解と固定観念」から、男女の区別への配慮が必要だったためです。

実際には「女性への配慮というよりも、男性と同席させないことが目的だった」ようで、「男子の学問修業の場に女がいては、心を乱して風紀上よくない」という、男性本位な考え方が強かったようです。

また「男女七歳にして席を同じゅうせず」が当然だった戦前の日本。当の女性にとっても、男性と並んで図書館を利用する行為は、恥ずかしさや苦痛を伴うものでした。

 

図書館を利用する女性は嘲弄の対象だった

当時の図書館には、女性利用者に対する「男性からのからかいや嘲笑」も、無視できないほどひどい状況にあったといいます。

明治38(1905)年に、帝国図書館の閲覧者の良くない行為を列挙した記事があります。

1つ目は盗難、2つ目は図書の汚損や破棄、3つ目は仮眠、4つ目は閲覧席の独占…ここまでは、男女問わずありえそうな行為です。

しかしなんと5つ目は「婦人閲覧者を嘲弄すること」で、こういった行為が図書館の場所を問わず、日常茶飯事に見受けられると書かれているのです。

 

時代は変わり「婦人閲覧室」はなくなったけれど

現代の図書館に「婦人閲覧室」はありません。もちろん、利用者が女性だからという理由で嘲弄されるようなことも滅多にないでしょう。そもそも司書の多くが女性なのです。

現代において「婦人閲覧室」は過去の遺物に過ぎず、女性も男性と肩を並べて何の問題もなく「一般閲覧室」を利用できる時代になりました。

しかし、婦人閲覧室についての資料を読んでいる間中、私の頭に、なにか既視感のようなものがありました。

婦人閲覧室と同じように、女性を男性から隔離せざるを得ない場所として、やむを得ず設けられている場所。現代の「女性専用車」が、婦人閲覧室に似ていると思ったのです。

 

女性専用車設置の略歴

なにかと話題に上りがちな女性専用車ですが、意外にも歴史は古く、初めて設けられたのは、戦前の明治45(1912)年、東京府の中央線だったそうです。

その導入理由は「女学生を痴漢から守るため」。なんと、114年が経った2026年現在まで変わっていないのです…。

※女性専用車は、1973(昭和48)年に「シルバーシート」(優先席)と入れ替わる形で、一度は廃止となったが、2000年代に車内における迷惑行為や痴漢行為が社会問題化したことを背景に復活。1988年に起きた地下鉄御堂筋事件(痴漢を注意された男2人による逆恨みに起因するレイプ事件)も、1つのきっかけとなった。

 

女性専用車が必要ない社会の実現を!

日本人男性、図書館ではお行儀よくできるようになったのに、電車内での蛮行は、100年経っても変わらないのでしょうか…。

東京都の行った「令和5年度 痴漢被害実態把握調査」によると、生涯で電車内・駅構内での痴漢被害に遭った経験のある女性は4割を超えています。

さらにその状況に周囲の人が気づくことは少なく、当事者は痴漢被害を我慢したり、何もできなかったと答えています。

女性は隔離されたくて、されているわけではありません。女性専用車に乗っている女性の多くが、利用せざるを得ずに、利用していることは明らかです。

現代社会においてなお、女性専用車が「痴漢対策」として設置されている状況は、恥ずべき現実といえるでしょう。

 

【参考】
『女性と図書館 ジェンダー視点から見る過去・現在・未来』青木 玲子/著 日外アソシエーツ 2024.2
■痴漢撲滅プロジェクト「痴漢被害実態把握調査報告
■東京都「令和5年度 痴漢被害実態把握調査 報告書概要版
■ハフポスト NEWS 「電車内で「痴漢」に遭いやすい場所、時間帯、時期は?女性の4割超、男性の約1割が被害経験【調査結果】
■情報・知識&オピニオン imidas – イミダス「女性専用車両 | 時事用語事典
■Wikipedia「日本の女性専用車両

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