
フリーライターの小林なつめです。
「かわいい」という価値観
私は子どものころからずっと、かわいいものが好きです。ファンシーな雑貨や、動物を模した服や小物、ぬいぐるみ…かわいいものを見たり、ふれたりしていると、心が和みます。
でも私自身は、体格が良くて声も低く、見た目でも声でも男性と間違えられることもよくあるので、「かわいいもの」は自分には似合わないという認識でした。
そんなある日、勤務先の小学校の子どもに「先生はかわいいから」と言われ、心から驚きました。「先生が!?かわいい!!??」と、思わず聞き返してしまったほどです。
するとその子は「先生はかわいいよ、声も~見た目も~」と返してきて、またまたびっくり。私のこの野太く、ときにどすの効いた声を「かわいい」と思う人がいるんだと仰天しました。
でも、考えてみてわかったのです。この子にはこの子の「かわいい」という価値観、感じ方があるのだと。その基準が、世間一般のものとは、少し違うだけなのです。
男の子もかわいいものが好き?
そういえば、最近の子どもたちは、あまり男女の垣根なく「かわいい」に親しんでいる傾向があります。
少し前には、高学年の男子が、明らかに女の子向けのかわいいイラストのついた小説をめくりながら、「俺はこのシリーズ、全部読んじゃった」と、友だちの前で話していました。
私の小学生時代だったらありえない光景だったので「それ言っていいんだ?」と拍子抜け。かつて、そんな発言をしようものなら、「そんなもの読んでるの」と、からかいの対象になっていたと思いますが、そんなツッコミをする子どもは1人もいませんでした。
また、別の日の朝、通勤中に見かけた男子中学生は、リュックにかわいいぬいぐるみなどの、カラフルなキーホルダーをじゃらじゃらつけて登校していました。
私が中学生のころ、そんな男子は見たことがなかったので、思わず二度見してしまい、なんだかとても嬉しい気持ちになりました。
本当は、かわいいものが好きな男の子や男性も多いのです。
でも、かつては男の子がかわいいものを好きなのはおかしい、かわいいものは女の子のものという、世間の価値観が強かったので、あまり大っぴらにはしない人が多かったのでしょう。
私の弟も、小さいころからかわいいものが好きで、ぬいぐるみやキーホルダーを集めていたことを思い出しました。
かわいいバンド「スピッツ」も…
私が「かわいいバンド代表」だと思う、スピッツの草野マサムネさんも、インタビューでこう語っています。
「90年代くらいまでって、男らしさ、女らしさみたいなもの束縛が今より強くて、男らしくないとされているもの―たとえばかわいいものを歌詞の世界に入れようとしてたって言っても、あんまりメディアとかで取り上げられなかった。
でも今は時代も変わって、世の中が結構スピッツ化してきてるなと思うんですよ。だから、ちょっと気持ち悪いって思われてもいいから、かわいいものとかを入れていこうっていうのは、ここ10年ぐらい思ってますね。」
「ROCKIN’ON JAPAN」2023年5月号より
「かわいい」は進化している!
最近、男女問わず「好きなものを好き」というハードルが下がってきていて、男性でもかわいいものを愛でていいという風潮に変わってきているように思います。
今まさに現在進行形で進んでいる「かわいい」の進化は、男らしさ、女らしさといったジェンダーからの解放に、貢献してくれるでしょう。
前述した女子・男子児童の発言も、中学生のキーホルダーも、そしてスピッツの音楽も…すべての「かわいい」が、それを推し進めてくれているように感じています。
参考:
■「もののあはれ」から「かわいい」につながる日本独自の美意識とは | 夢ナビ講義 | 夢ナビ 大学教授がキミを学問の世界へナビゲート
■「ROCKIN’ON JAPAN」2023年5月号