見過ごされがちな無償の「感情労働」今となっては心底面倒

見過ごされがちな無償の「感情労働」今となっては心底面倒

見過ごされがちな無償の「感情労働」今となっては心底面倒

フリーライターの小林なつめです。

 

先日「上田と女がDEEPに吠える夜」の、フェミニズム特集回を見ていたとき、タレントのLiLiCoさんが、タクシー運転手に暴言を吐かれたというエピソードを話していました。

LiLiCoさんは、多忙な日々の中、どうにか時間を捻出し、先輩の舞台を見に行こうとタクシーに乗ったとき、運転手のおじさんに「いいよなあ、女はさあ、昼間からタラタラと芝居見られるなんて」と言われたといいます。

これに対して司会の上田晋也さんは「かなりレアケース」とコメント。TVの前の私は「全然そんなことない!」と思ったのですが、他の出演者女性も同じで、「タクシーではよくある」と口々に反論していて、「やっぱりそうなんだ…」と思ったところです。

というのも、私もいつも、タクシーやミニバスで、運転手さんに話しかけられることに辟易しているからです。

 

タクシードライバーの話し相手は大変

20代のころ、タクシーを使う機会はあまりありませんでした。でも、たまに乗ることがあると、ほぼ100%の確率で、中年男性の運転手さんが話しかけてきます。

当時の私は、「タクシードライバーは喋るのも仕事のうち」だから、話しかけてくれているんだろうと、好意的に受け止めていました。

それに、車のハンドルは運転手が握っているのです。機嫌を損ねないように愛想よくした方がいいだろう…という考えもありました。

でも今は少し…いえ、全然違います。ほとんど180°捉え方が変わってしまいました。

 

私が変わった一番の理由は、生活に余裕がなくなったからです。子育てをするようになり、子どもから離れられる1人時間は、私にとって貴重な時間となりました。

タクシーで移動する、たった30分やそこらの時間も、私にとっては大事な1人時間。たまった用事を済ませるも、スマホを眺めるも、ぼーっとするも、私の自由です。

それなのに…タクシーの運転手が中年~高齢男性だと、ほとんどの場合、そのささやかな自由すら享受できません。運転手さんが絶え間なく話しかけてくるからです。

 

今日の天気に始まり、ひいきのスポーツチームの調子、自分の経歴、身内の誰それの近況…基本的には一度しか出会うことのない運転手の話を延々聞かされ、あいづちやリアクション、感想を言外に求められる苦痛の時間を、何度過ごしたでしょう。

タクシードライバーにとっては「サービストーク」でも、私にとっては、自分がサービスしている感覚で、降車時には、逆にお金をもらいたくなるくらい、疲れ果ててしまいます。

子どもを連れているときには、運転手さんに加え、子どもも「ねえねえ」と話しかけてくるので、「あれ?私は今、何人の子どもを連れているんだっけ?」と分からなくなるほどです。

 

おしゃべりな男性による「演説」も苦痛…

似た例として、女性の割合が多い職場における、男性の「演説」があります。

その場にいるのが女性だけであれば、誰もが満遍なく発言し、全員での「会話」が成立するのですが、そこにしゃべり好きの男性が入ると、もはや「会話」ではなくなります。

たちまち会話の主導権を握り、1人でしゃべり倒すからです。大抵の場合、「私はこの人の講演会に来たのかな?」と勘違いしそうな状況になります。

聞いている女性たちは笑顔でうなずき、あいづちや合いの手を入れたり、一言コメントを入れたり…私も若いころは平気でできたのですが、年々笑顔が引きつっていくようになり、今ではその場に出くわしたら、早々に退散するようになりました。

 

女性に話を聞いてほしい

気持ちよくしゃべらせてほしい…

彼らのこういう気持ちが、ジワジワと伝わってきて、それに応えるのが苦しいのです。

 

男性側からするとどうなのでしょう。「女性に笑顔で話を聞いてほしい」「女性は愛想が良くないと」??でもこれらはすべて、無償の「感情労働」そのものです。

 

女性たちが引き受けている、無償の「感情労働」

世の中の女性は、働いている・いないに関わらず、この感情労働を担うよう求められ、多くの女性が従順に、この役割を果たしています。

長年この役割を果たしてきた女性たちにとって、この状況は当たり前の風景でしかありません。

例えば職場の誰かと話す場面。たとえ対等な立場の相手(異性)でも、男性は無表情で淡々と話す人が多い一方、女性はニコニコ笑顔で話している人が多くはないでしょうか?

多くの女性たちは、職場では男性社員の話に笑顔で耳を傾け、家庭では夫の怒りを鎮めて、子どもたちをケア…さらには全くの他人で、本来ならサービスを提供してくれる側のタクシードライバーにまで、聞き役を求められる日々を、文句も言わずに過ごしているのです。

感情労働にはストレスやプレッシャーといった、精神的な負荷が伴います。それなのに、「女性には無償で差し出させて当然」という風潮が、まだまだ根強く残っています。

この現状を少しでも変えたいという思いから、この記事を書いた次第です。

 

 

参考:
増える女性の自死。背景にある“感情労働”とは – RKB毎日放送

「職場における感情労働」は正当に評価されるべき | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

感情労働が未来の職場をどう変えるか、フェミニスト経済学の新視点(鐙麻樹) – エキスパート – Yahoo!ニュース

タクシー運転手からタメ口とセクハラの数々「家に行っていい?」「結婚適齢期なのに」 | 文春オンライン

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