フリーライターの小林なつめです。
朝ドラを筆頭に、女性脚本家の活躍が目覚ましい今日この頃。
女性脚本家による作品は、社会における女性の立ち位置はもちろん、シスターフッドの描き方も素晴らしく、夢中になって見守っています。
いま大注目の3人の女性脚本家
やはり大注目なのは朝ドラ「虎に翼」です。「他記事URL」でも少し紹介しましたが、弱者としての女性に、とことん寄り添う姿勢に、強い意志を感じます。
「虎に翼」の脚本家は吉田恵里香氏、1987年生まれで、驚くべきことに私と同世代です。
代表作として、NHKのドラマ「恋せぬふたり」や「生理のおじさんとその娘」などを書いています。
桐野夏生氏の小説をドラマ化した「燕は戻ってこない」も、衝撃的な作品でした。
ワーキングプアの女性が、困窮した生活から少しでも抜け出したいと、代理母になる選択をするストーリーです。
格差社会のあり方、代理出産の是非、犠牲者側になりがちな女性の苦しみ、怒りが、こちらが苦しくなるほど鮮明に描き出されたドラマとなっていました。
「燕は戻ってこない」の脚本家は1977年生まれの長田育恵氏。
長田氏は、「虎に翼」の吉田氏より10歳上の世代です。代表作として、朝ドラ「らんまん」があります。
そして忘れてはいけないのが、大河ドラマ「光る君へ」。
実は私は、大河ドラマを見るのは初めてなのですが、平安時代を生きる人々のイキイキとした描写に、すっかり心奪われています。
この作品でもまた、女性同士のシスターフッド的交流が丁寧に描かれており、魅力の1つとなっています。
「光る君へ」の脚本家は大石静氏。
代表作である朝ドラ「ふたりっ子」で知られる、1951年生まれの大ベテランです。
最近では「和田家の男たち」「星降る夜に」などのドラマの脚本を書いていますが、大石氏の作品には全く古臭さを感じません。
家事をする男性はもちろん、イキイキ働く障害者などが随所に登場し、世代の違う人々の価値観の変化や、新しい世代の感覚がリアルに描かれています。
時代の色を捉えることに長けている方なのでしょう。
結局は「女性目線」「女性ならではの」なのか?
さて、ここまで、今をときめく女性脚本家3名を紹介しましたが、ここで浮かぶのが「結局は『女性ならではの視点』を持っている人の脚本だから、惹かれるんじゃないの?」という疑問です。
私は脚本家の性別で、見るドラマや映画を選んだことはありません。
それでも「好みのストーリーだな」「すごい作品だ」という感想を抱いた作品の脚本家を調べてみると、女性であることが多いのです。
とはいえ、男性脚本家の作品に心惹かれることも少なくありません。「これも女性脚本家の作品かな?」と調べてみると、これは男性の脚本なのか!と驚くこともあります。
例えば「今夜すきやきだよ」や「SHUT UP」といった、シスターフッドを描いた作品は、男性(山西竜也氏)が手掛けています。
「今夜すきやきだよ」は、以前も「シスターフッドを描いたフィクション作品についての所感」で紹介しましたが、元々は女性漫画家による、女性に人気のある漫画が原作です。タイプの違う女性2人が、シェアハウスで友情を深める日常を描いています。
一方、「SHUT UP」は、なかなかの衝撃作です。前述した「燕は戻ってこない」のように、主人公は貧困層の女子大学生たち。彼女たちなりのやり方で、自分たちの境遇を打破しようともがき、果ては組織ぐるみの性暴力事件を暴こうとする姿が描かれます。
ほかにも、「東京ラブストーリー」で知られる坂元裕二氏は、ジェンダー観やフェミニズムの要素を大いに取り入れた作品作りをすることで知られています。
「Mother」や「Woman」、「問題のあるレストラン」、はたまた「最高の離婚」や「大豆田とわ子と三人の元夫」など、どれを見ても、女性の視点で丁寧に、真摯に社会の様子や人間関係を掬い上げた作品となっています。
これらの作品を見て私が思ったのが「女性目線、男性でも持てるんじゃないか!」ということ。感覚や感受性を性別の枠に留めていない男性は、女性の視点、モノの見方で世の中を眺められるのではないでしょうか。
これは、今はまだ、「特別な男性」だけが持つ才能かもしれません。でもジェンダー感が変化しつつある現代、これからは特別な才能でもなくなっていく可能性を感じています。
【参考】
■<和田家の男たち>最終回までの全話の解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】 (2021年11月14日)
■「はて?」が許されない『燕は戻ってこない』の女性たち 『虎に翼』と同時に描かれる意義
■「ごまかしがきかない世の中に」…『燕は戻ってこない』脚本・長田育恵さんが考える「女性とドラマ」
■クドカン、坂元裕二…男性脚本家の「ジェンダーの描き方」に起きた、確かな変化(西森 路代)
■2010 年代以降の坂元裕二脚本作品における女性像