フリーライターの小林なつめです。
少し前のこと。小学校に上がった長子が、ふいに「それってあなたの感想ですよね?」というフレーズで私の話をさえぎってきて、「ついにきたか」と動揺したことがありました。
「それってあなたの感想ですよね?」は、どこからきたか
今では誰もが知るこのフレーズ。この言葉が最初に発せられたのは2015年6月に放送された『ビートたけしのTVタックル』だといいます。
ひろゆきこと西村博之氏が、意見を言った相手を論破するために放った一言でした。
今や、ベネッセ発表の「小学生(3〜6年生)の流行語ランキング」(2022年)で1位を獲得するほど、子どもたちの間で知名度が上がっている台詞となっています。
私はこの言葉が嫌いです。こういうことを言って相手をねじ伏せようとする人こそ、感情的ではないかと思うし、一方で「感想で何が悪い」とも思うのです。
最初にひろゆき氏がこの言葉を使ったのは、相手の発言への反論シーンで「それは事実ではない≒感想だ」という意味合いが込められていました。
でもいまや、この言葉はその意図を失い、感想そのものや、感想を話した相手を糾弾する武器になってしまっています。
確かに事実と感想を分けることは必要です。でも、もしそれを伝えたいなら「事実と感想を分けることは必要」だと、シンプルに伝えるべきでしょう。
「感想ですよね」という言葉の根底には、相手をねじ伏せよう、何なら煽ってやろうという底意地の悪さや、思いやりのなさを感じます。
「お気持ち」は、どこからきたか
これに似た言葉に、「お気持ち」があります。
これはなんと2016年に明仁天皇(当時)が、国民に向けて生前退位の意向を表明したことをきっかけに、生まれた言葉だそうです。
元々は、単なる天皇に向けた尊意を示した表現であったのにも関わらず、今では「私見を述べること」そのものを皮肉った、ネガティブな意味合いのネットスラングとして使われるようになってしまっています。
人の気持ちや感情を軽蔑する現代の風潮
「感想」に「お気持ち」。どちらも、人の気持ちや感情を軽視し、軽蔑し、攻撃する際に使われる言葉として、広く若い世代の間で広まっています。
この言葉が広まった背景には、「気持ちや感情は軽視していい」「感情的になったら負け」というような考えが根深いのではないでしょうか。
誰かの気持ちや感情を軽く見ることは、自分の気持ちや感情をも軽視し、大切にしないということにつながります。
感情の軽視はジェンダー問題に通じる
そしてこれは、ジェンダーにも深くかかわる問題です。
以前「感情史に見る男女差。女性が感情的だとされる理由を考えてみた」の記事で述べた通り、「女性は感情的な生き物」という定説から、科学的根拠はないにもかかわらず、「感情の男女二元論」を支持する人が多いからです。
実際、「感想」や「お気持ち」のスラングは、SNSなどのネット上でトーン・ポリシング(発言内容そのものではなく、発言の仕方にスポットを当て、論点をすり替える行為)として、男性から女性に使われることが多くあります。
気持ちや感情、感想を軽視すべきではない
でも、気持ちや感情、それを表現する感想は、人間の根幹にあるもので、本来決して軽視されるべきものではありません。
私は気持ちや感情、その表現こそ、人をその人たらしめるものだと考えています。気持ちや感情は、最も尊重されるべきもので、軽視されたり軽蔑されたりするべきではないのです。
だから今、こういうスラングが子どもの間に広まることは、悲しくゆゆしき事態だと思います。
自分はもちろん、家族や友だちなど、周囲の人の気持ちや感情を大切にすることこそが、多様性を受け入れる社会性を育んでいくのではないでしょうか。
参考:
■あなたの感想ですよね (あなたのかんそうですよね)とは|ピクシブ百科事典
■「それってあなたの感想ですよね」小学生の流行語1位に|ITmedia NEWS
■お気持ち表明 (おきもちひょうめい)とは|ピクシブ百科事典
■感情史に見る男女差。女性が感情的だとされる理由を考えてみた|リアンブルーコーチング舎