スタートラインは「子を持つことは親のエゴ」という認識から?「反出生主義」について考える

スタートラインは「子を持つことは親のエゴ」という認識から?「反出生主義」について考える

スタートラインは「子を持つことは親のエゴ」という認識から?「反出生主義」について考えるフリーライターの小林なつめです。

 

男女が出会う⇒結婚する⇒子どもを持つ

という流れが、当たり前ではない時代。

 

反出生主義って?

SNS上で「反出生主義者」が、ママアカ(育児中の母親によるアカウント)を攻撃し始めたのは、いつごろだったでしょうか。

「反出生主義」という考え方が日本で話題になったのは、2006年出版の、南アフリカの哲学者ディヴィッド・ベネターによる著作の日本語訳版『生まれてこないほうが良かった―存在してしまうことの害悪―』が、2017年に出版されたことに端を発していたそうです。

私が初めて反出生主義という考え方や、彼らの存在を認識したのも、ちょうどそのころで、長子を産んだ2018~2019年ごろでした。

反出生主義(Anti-Natalism)は「人間は生まれてこないほうが良い、と考える立場の総称」。

誕生・出産を否定する反出生主義者は「自分は生まれてこない方が良かった」「人は生まれてこない方が幸せだ」と主張します。

最初にこの思想を知ったとき、人の誕生や出産など、元々は積極的に肯定されていた(されるべきだった)行為を、否定的に捉える思想、それに基づいた言動を見聞きし、私は戸惑いと恐怖を覚えました。

 

「子を持つことは親のエゴ」か?

でも、一方で反出生主義者が言うように、「子を持つことが親のエゴ」というのは、他ならない事実だとも思います。

実際、私たち夫婦は子を持つ前に「今、私たちが子を成すとして、現代社会に生まれた子どもは幸せになれるのだろうか」というテーマで、再三話し合いました。

生まれた子どもと、その人生によっては、幸せになれない可能性も十分に考えられます。それでも、この社会で子どもを成し、育てることを選んだ私たちは、自分たちのエゴでそうすることを、自覚せざるをえませんでした。

元々、私自身、環境問題などに関心の強い母親に「こんな社会に生み出して申し訳ない気持ちがある」旨を伝えられることがよくあります。(実際、地球環境や人類の将来に目を向けると、暗澹たる事実を目の当たりにすることになります)

しかし、私自身は、幸せな子ども時代を過ごし、大人になってからも自分の手で人生を切り拓いている実感を得ており、日々生きる喜びを感じています。

夫も同じなので、子どもを成す決断をしました。

今となれば、私たち夫婦の場合、「子を成すことは親のエゴだ」と認めたことが、親になる覚悟を持つ第一歩だったように思います。

だから私は、人生がままならない、生きることすらままならない人たちが、まだ生まれていない子どもたちに対して「生まれてこない方がいい」と考えるのは、一種の思いやりであり、その気持ちは分からなくもないと思うのです。

 

子を持つのが親のエゴだとしても…

とはいえ、彼らが自分なりの哲学を振りかざし、すでに子を産み、ある程度の覚悟と責任感を持って子を育て(ようとし)ている親たちを攻撃するのは、また別の話です。

子を産みだしたが最後、それは「親のエゴと言われるべき行為」だということを自覚こそすれ、「産まなければよかった」と思う必要はないでしょう。

上野千鶴子氏と田房永子氏の対談本、『上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください!』にも、「子どもを産むのは親のエゴイズム」というトピックが設けられています。

団塊ジュニア世代である田房氏は、当時の女性は「負け犬」になるのを恐れて、思考停止で生活習慣として「妻になり、母になる」道を選ぶ傾向にあったと話します。

何も考えず、周囲や社会の雰囲気に飲まれて「結婚したい」「子どもが欲しい」「子どもは◯人」などと考えたり、生活習慣の一環として「なんとなく」子を成す…そうやって産まれた子ども側からすれば、ときに悲劇を生みそうな成り行きではあります。

上野氏が「ひどい社会だね」と言うのにも、無理はありません。

それでも私は、産んだ子どもの顔を見て「私はこの子に会いたかったんだ」「この子と会うために生きてきたんだ」と思い、子どもと共に生きていけるのなら、それはそれでいいのではないかとも思うのです。

 

 

参考:
誕生・出産を全否定する“反出生主義”が間違っている7つの理由。「なぜ貧乏なのに僕を産んだの?」にどう答えるか=午堂登紀雄 | マネーボイス

〈研究ノート〉反出生主義をめぐる今日的状況に対して教育(学)は何ができるのか

反出生主義をめぐる混乱 – 親鸞仏教センター

『上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください!』上野 千鶴子/著 大和書房 2020.1

 

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