【育児×キャリア シリーズ】子どもを望んで理想の職場を去る…「産む性」としての女性のキャリア

【育児×キャリア シリーズ】子どもを望んで理想の職場を去る…「産む性」としての女性のキャリア

【育児×キャリア シリーズ】子どもを望んで理想の職場を去る…「産む性」としての女性のキャリア

フリーライターの小林なつめです。

私は2013年に結婚を機に上京、同年の公務員試験で図書館司書として採用され、Uターン移住するまでの7年間、都内の図書館で働いていた。それまでも図書館で働いてはいたものの、非正規雇用の身分だったため、正規職員としての採用は、自分としては大出世だった。(※日本の図書館で働く司書の6割は非正規職員、その多くが女性だ。公共図書館の運営は、実質、官製ワーキングプアーの女性が支えている。)

その職場は私にとって、天国にも等しい場所だった。一番嬉しかったのは、司書として全力で働くことが許され、評価までされるということだ。

というのも、非正規職員だったころは、待遇が悪く、フルタイムで働いても手取りは正規職員の半分ほど。ボーナスは雀の涙で、昇給や昇進の見込みもない。残業手当が出ないため、基本的に残業はNG。このような環境なので、全力で働いたところで、自分にとってのメリットはあまりなかった。いわゆる「やり甲斐搾取」と言っていいと思う。一生懸命働いたところで、その努力が評価や待遇に反映されるわけではなく、それどころか、薄給がゆえ、生活すら成り立たないのだ。

もちろん、司書の正規職員は地方自治体の公務員なので、非正規職員と比べると責任が桁違いに重い。しかしそれを甘んじて受け止め、余りあるほどに、その仕事には魅力があった。

 

私の採用先は大きな図書館だったので、司書の仕事は多岐に渡り、学びが多かった。司書職員は女性が8割を占めていたが、都会の図書館だからか、スマートで付かず離れずの人間関係も心地よかった。司書として働けることの幸せと誇り、情熱を日々感じていた。

仕事には正当な給与が支払われ、手当や休暇がつき、努力すれば上司に評価してもらえる。好きなことを仕事にして、自力で生活できる喜びを初めて知った。もし私が結婚していなければ、定年まで勤め上げたことだろう。

でも実際には私はその仕事に就く前から結婚していたし、そもそも結婚していなければ、上京することすらなく、就職試験を受けることもなかった。仕事よりも家族を優先するのは、私にとって必然だった。

また、私は妊娠に向かない体質で、妊娠する度に長期間の入院を強いられた。次の妊娠でも体調を崩すだろうことは、容易に想像できた。夫婦だけの頃は、それでもなんとかやっていた。しかし共働きで長子を育てる中で、第二子を考えるのならば、夫婦二人だけで生活を回すのは厳しいだろうと悟った。折しもその頃、世界を新型コロナウイルスが襲った。仕事を辞め、移住するのに、これ以上ない好機だった。

そして私は仕事を辞めた。地方では司書の正規職員の募集は少なく、年齢制限もあるため、恐らくもう正規職員の身分で働けるチャンスはない。それはもちろん分かっていたが、キャリアと第二子のどちらを望むか考えて、まだ見ぬ第二子との出会いを優先することにした。移住後、私は運良く妊娠し、第二子を授かった。やはりまた体調を崩し、長期間の入院をしたが、無事に出産し、子育てをしている。

 

キャリアを捨てたことに後悔がないかと言うと、ないとは言い切れない。かつての職場ほど理想の職場は私にはないと思うし、今も司書として働きたい気持ちがある。でも仕事を辞さなければ次子を産めなかったことを考えると、割り切るしかない。それに今後も何かしらの機会は巡ってくるだろう。私はまだ、自分のキャリアを諦めていない。

私の例も含め、女性のキャリアは、結婚や妊娠、出産、その後の育児などのライフイベントに大きく影響される。望む望まないに関わらず、退職や転職を余儀なくされることもある。結婚や妊娠、出産は、ある程度は自分で選択できるけれど、思い通りにいくとは限らない。

ライフイベントに応じてキャリアを手放し、結婚後には「◯◯の奥さん」、出産後には「◯◯ちゃんのママ」として生きる。日々の家事や育児に追われ「自分の人生を生きている」と実感できない虚しさは、それを経験した女性にしかわからないかもしれない。妊娠や出産は何事にも変え難い、素晴らしい経験であると同時に、「産む性」である女性の重たい足枷でもある。

私は長子の出産前に死産、流産の経験がある。だからより一層強く感じるのかもしれないが、次子の出産で、これで妊娠・出産はもう終わりかもと考えた時、ある種の清々しさを覚えた。それは「産む性」としての役目を終え、「これからは自分のためだけの肉体」で生きていいのだという、解放感のような感慨だった。この社会に生きる以上、女性たちは誰もが「産む性」であることの呪縛に囚われているのかもしれない。

 

【参考URL】
女性が4分の3占める「非正規公務員」 遠い処遇改善|NIKKEI STYLE
街の図書館が「6割非正規頼み」の厳しい現実 | ワークスタイル | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース
図書館で働く非正規労働者の実態と改善課題 | 論文 | 自治体問題研究所(自治体研究社)
女性のライフイベントとキャリアの両立 | キャリコンサロン

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